プロの道具

一時、写真を仕事にしていたことがある。というか、写真そのものではなく、小さなマスコミの一角にいたので、そこでは写真をどうしても重視せざるをえない。そこで、写真を撮っていた。報道写真であるから、プロの写真といっても、スピードが命だ。であれば、いわゆる「JPEG撮って出し」がすごく多くなる(全部ではない)。RAW現像などでああでもない、こうでもない、とディティールを検証している余裕はない。数秒、数分で勝負が決まる。弱小零細マスコミなんてのは、吹けば飛ぶような存在である。であれば、その特徴を出すのは「スピード」しかない、ということになるから、とにかく記事露出までの時間を急いだ。大手マスコミに、弱小零細マスコミが対抗できるのは、その一点しかない。

機材は最高とは言わないが、とりあえずそれなりのものを自前で揃えたら、まぁ、それなりの値段にはなった。しかし、それよりも難儀だったのは、機材の重さである。超広角ズームにボディ1つ、望遠ズームにボディが1つ。報道写真では、交換レンズを交換するような悠長な時間はない。常にこの構成で、一瞬しかないタイミングを狙う撮影に備える。加えて、自分の場合は、ビデオの機材も持って歩いた。全部で8kgあった。スチルの場合は、最近のカメラは手ブレ補正があるので、ほぼ三脚なしでも行ける場面が多かった。ストロボは照明がままならないときはどうしても使うが、最近はデジタルになって高画質で感度が高くなってきているので、ストロボは小さなものでもなんとかなる。とは言うものの、ほとんどストロボは使わなかった。超広角の画角の広さに対応するために、ストロボにはディフューザーはやはり必要。つまり、私の場合、三脚が必要なのはスチルではなく、ビデオなのだ。三脚選びも、たたんだ時の大きさが60cm以内でないと、航空機に入れてもらえない、など、様々な制約がある。機材は壊れやすい精密機器であるのと、取材が機内にも及ぶから、全て機内持ち込みにする必要もあるからだ。

ところで、自分の写真に超広角が必須なのは、このときの経験による。取材ではパーティなどの取材も多かったわけだが、こういう酒宴では、取材対象を目の前にすることが多く、そこでカメラを構えると、標準レンズではどうしてもフレームからはみ出てしまう。構えるためにちょっと離れて撮る、ということもできないこともある。また、そういう間を置くと、取材対象が写真に構えてしまって、自然な表情が撮れない。その場で「パッ」と撮るのが一番いいのだ。だから、パーティ会場で「ではここで写真を」「パチリ」というときなどは超広角が必須。また、ここでレンズ交換がどうした、とモタモタしているわけにはいかない。だから、レンズごとにボディを持つことになる。それが報道写真というものだ。

ポイントはスピードであって、記事にして電子ファイルにして、本社のWebに掲載するまでの時間を重視したから、当然PCも持って歩く。ビデオ編集ももちろんできるようにしていたが、メインはスチルだ。これを現場で素早く編集して、記事の文書を書き、写真とともにレイアウトしてWebに掲載。

ときには、パーティや集会、セミナー、ライブが終わったそのときには、記事が出来上がっていて、写真もWebに完全にあがっている、という状況もなんどもあった。いや、そのように作った。このスピードで読者のアクセスを集め、信頼を得ていく。大手のできないことをする、という目標を立てたら、こういうやり方に落ち着いた、というだけなのだが。

しかし、アマチュアの写真を見て思うのは、アマチュアの写真は「カメラ」という高級感のある耐久消費財への愛が多すぎて、写真そのものにこだわっている人は少ない、ということ。また、写真という表現にこだわっている人でも、写真そのものにこだわるだけではなく、その写真がなにを表現し、表現したもので社会をどう変えるのか?というビジョンまでこだわる人はもっと少ない、ということだ。もちろん、趣味であれば、そこまでこだわらなくても、誰も文句はない。だから、アマチュアの写真はプロを超えることはない。

しかし、アマチュアであっても、一度はいい機材は使ったほうがいい、と思う。それを経験すると、スマホで写真を撮っても、やはり感覚が変わる。

 


サイバー戦争が始まった(14) ルーティング・テーブル

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

2017年8月25日、その日の昼過ぎ、Google社のエンジニアがルーティングの操作を誤り、世界中のインターネットを止めた。同社は調査後に世界中に向けて謝罪を行なった(謝罪ではなく、単なるプレスリリースであったようだ)。ほんのいちエンジニアの操作ミスであった、という。インターネットとはいっても、その程度のもの、といえばその程度のものであもあるのは、仕組み上、仕方ないことだ。

「おい、できたか?」
「もう少し。今日の午後にはできる」
「攻撃は明後日だ。ぶっつけ本番になるが、なんとかなりそうだな」
「そのつもりだ」

インターネットの根幹を成すTCP/IPという通信プロトコルでは、常にネットワークのデータパケットの行き先を「ルーティング・テーブル」というデータの塊で管理する。このテーブルは実は簡単に書き換えが可能性だ。従って、全世界、あるいはある地域のインターネット接続はこのルーティングテーブルをめちゃくちゃに壊すことで破壊できる。しかもそう難しくはない技術で、誰でもができる。

今回の事故はGoogleのネットワーク管理者のほんの些細なオペレーティングミスで起きた。当然のことながら、この仕組みを使って、世界中のインターネットを一瞬にして停止する、ということもできる。であればこれをサイバー兵器として使わない手はない、と、誰もが考えるだろう。

その数日後、作戦は決行された。

オープンシステムを標榜していた、標的になった国のンターネットをベースとする軍事システムはすべて止まった。当然のことながら、民間の通信システムや、電話なども不通になった。その隙をついて、某国からその国への空からの攻撃も始まった。攻撃された国は大混乱となり、翌日、降伏文書への調印が行われた。

「なんとかなったな」
「なりました。作戦終了ということで、ルーティングテーブルを元に戻します。おそらく、機器などの破壊は最小限に抑えられたと思います」
「よくやった。今日は飲みに行くか」
「そうしましょう。緊張しました。ごく一部を除いて、流血もなかったし。まぁ、よかったとしたいです」

その日、破壊されたその国のインターネットはすべて復旧。いつもと変わらない毎日が訪れた。その国の政府がまるまる、他の国の政府の管轄となった、という以外は。


2017/08/27

「人工知能ブーム」はパラダイムの転換

実は、人工知能のブームの火付け役となったのは、その背後に隠れている「Deep Learning」だ。このDeep Learningの技術が計算速度の高速化などの要素と融合し、実用域と言えるところまで発展した。Deep Learningを使うと、囲碁やチェスなどはもう人間はかなわないものとなるのは、既に数々の成果を見れば明らかだ。

さらに、Deep Learningは一般の検索などのアルゴリズムにも利用され、コンピュータがまるで人のように受け答えができるようになる。これで一般の人はとても驚いた。

しかし、この手法は根本的に「間違っている」とは言い難いが、根本的なところで「今までと違う」ということは言えるだろう。「今まで」は、コンピュータは「Computer Science」だった。つまり、科学だった。だから、ある事象があると「それはなぜ起きるか?」ということの理解が前提で、その上に、数々の応用的なアプリケーションを載せることができたし、事実そうしてきた。つまり、事象の意味や原因を考え、その事象と似た新しいものを作っていくことを考えたのが、従来のコンピューティングであった。つまり行動原理は十分に解析されていた。

しかし、Deep Learningは、そもそものアプローチとして、「なぜそうなるかは問わない」。そこから始まるのではなく、現在人間社会で起きていることはそのまま「あるもの」として肯定し、それをデータとしてデータベースの蓄積すると「この行動のあとには必ずこの行動が来る」ことがある程度の高い確率で予測できるので、その行動を起こす。つまり、物事の「表層」のみを扱う。

であるから、Deep Learningでは従来ないもの、や、従来は考えられなかったもの、というのは、全く新しい行動に反映されないことになる。なにかの行動を起こす必要があるとき、人工知能は従来ある知見からしか、未来の行動は起こせない。

たとえば、会社の上司に、就職して数十年、まるで飲みに行かない上司がいたとする。そんなとき、その上司がなにを思ったか「今夜は部のみんなで飲みに行こう」と言い出したとする。「なぜこういう行動を彼は取るのか?」と人工知能に聞いても、「わかりません」と答えるだけだろう。それまでのデータがなにもないからだ。あるいは、その上司以外の他の部の部長のデータから類推し、「確率は低いですが、XXということがあったんじゃないでしょうか?」程度の答えしか出てこないだろう。元になるデータがないから類推が当たる確率も大幅に減るのだ。その上司がもしも、しょっちゅう部下を飲みに誘う上司であれば、人工知能は「また奥さんにでも怒られたんでしょう」みたいな、そういう返答を返してくるかも知れない。それは過去のデータがあるから、かなり高い確率でそれを予測することができる。

つまり、現在の人工知能は「過去」というデータの集積を使って「これから」を予測し、今の行動を決める。それがDeep Learningなのだが、全くこれまでにない新しいことには答えを出してくれない。ということは、私たちの行動やその評価を人工知能に任せると、従来の古い経験に基づいた答えしか返してくれなくなる。もしこれが人事評価に使われるとしたら、その会社には「全く考えもつかなかった、新しい、面白いやつ」はいなくなる。

大阪の人たちの受け答えで「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんな」というのがあるが、これを米国の片田舎でやっても、だれも答えてくれない、なんてのと同じだ。

結局のところ、人工知能のはその限界を超えることはできない。それまでのデータの蓄積から、その発言や行動をしているだけだから、そこから新しいものは生まれてこない。私達は人間であり、新しいものや概念を作って歴史を刻んできたのだから、「人工知能とはそういうもの」という割り切りで、これを使うことが非常に重要である。

人工知能での受け答えというのは、簡単に言うと、過去をよく知っている古老にものを聞くことに似ている。その古老は過去の自分が経験したことをもとに、受け答えをする、というような、そういうものだ。それはなぜそうなのか?それは誰にもわからないが、昔からみんなそうしてきたのだから、そうなんだよ、と答えられる。そんなものだ。

 


人工知能とマスコミの関係と実際の開発者の話

基本的なこととして「人工知能」とぼくらが呼んでいるもののイメージはマスコミが「こんなもの」というイメージがほとんどなんですよね。でも、報道するマスコミの人たちの勘違いは2つあって、1つは「自分が面白いと思ったものが世の中に広まっていく」という勘違い。2つ目は「自分たちは世の中のものはなんでも理解できる」という勘違い。最初の勘違いは今日、ネットというものができて、かなり崩れたね。だから、結果として嘘になっちゃった。後者は、まぁ、役人にもよくある勘違いではあるんだが、人間である以上、ルネッサンス的な人間はそうそういませんよね。

コンピュータもインターネットも目の前にあるけど、それがどういうものか、という全体像もdetailも、それを実際に触って開発している人にしかわからない。でも、マスコミ人ってのは「わかる」と思い込んで報道する。実際に触って動かすぼくらは「マスコミってバカじゃねぇの」って言いながら、「はぁ、そういうものでございますねぇ」と、表を繕って接するだけなんだな。本当のことは教えないですよ。多くの人は、ぼくほど意地悪ではなくて、意識もしていないんだけどね。

AIと呼ばれている現在のテクノロジーは、これまであったテクノロジーの集積と統合だから、その統合の思想や哲学が理解されていないと、全くわからない。実際にやっている人間は「面白いねぇ」と言ってやっているだけで、興味がほかのことに移れば、違うことを始める。未来永劫「AIの専門家」ってわけじゃない。「面白いねぇ」と言うのは、「世の中を変えていく種がここにある」っていうおもしろさもあるんだけど、それはマスコミには教えていないですよ。結果=Effectだけ、ポロっと見せる。「どうしてそうなるか」なんてマスコミの人に解説してもわからないからね。言わないですよ。

今は「AI」というキーワードがブームなだけであって、本当のAIなんてのは数十年前から研究しているわけですな。そして「機械が人間のように振る舞う」のは、なにが楽しくてそうしているかというと、楽しいからだね。それ以外じゃないですよ。なにかの役に立つからやってる、ってわけじゃないよ。

この人口過剰と言われているこの人間社会にさ、もっと人間増やしてどうすんのかね?それ、役に立つの?混乱がひどくなるだけなんじゃないんか?人間の経験によるディープラーニングだって、要するに「人間と同じ経験」しないと、人間らしくならんわな。でも、人間の経験というのはアタマだけじゃなくて「成長」「五感」「愛情」みたいなものもあるわけでしょ。赤ちゃんのときの母親の肌の感触とかもあるわけでね。それらを人間のように感じて生きるには人間と同じ大きさの人間と同じ、人間と同じ五感と四肢を持って、成長もすれば老化もするし、死ぬときは死ぬようなものを作らないと、人間らしくならんわな。そういうものが積み重なって「忖度」できちゃうわけだしね。つまり、人間で言えば、脳だけが発達する、ってことはありえないわけですね。反対側から見れば「人工知能に、どういう方法で、どういう経験をさせるか(データをインプットするか)」が、ディープラーニングでもかなり重要なことになってくるわけですな。なにせ説明原理がないものを経験で扱うわけだからね。となると、人間そのものを作らないといけないから、「人工知能」ではなくて「人工人間」を作らないと、ことは解決しないわけですよ。そうなると、ITじゃなくて、バイオのほうに重点が移る。人工生命から人工人間まで、一気にいかないといかんのですわ。で、ここまで増えて困ってんのに、なんでまたややこしい「人間もどき」を、人間自身が作らなあかんのか?ってことですな。

それはねぇ、研究の目的を「人間自身」にとって、人工の人間をつくるその過程で、人間自身とはどんなものか?ということがわかってくる。至って文系的な「われを知る」ことにそれがつながるから、楽しくて理解もしたい、となるわけですな。つまり、人間自身を作ることを目指せば、その過程で、人間やその社会自身の理解が進んで、楽しくなるべな、という、そういうことですよ。

 


サイバー戦争が始まった(13) マインド・コントロール

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

「なりたい自分になる」「生き方を変え、人生を変える」。そういうキャッチフレーズで出てきたスマートフォンアプリ「チェンジ・ユア・マインド」、略して「CYM」は、「快進撃」という言葉そのままに、日本の若者の間に受け入れられていった。そのアプリをインストールすると、画面には、「指示」が出てくる。いわく「今朝の仕事に行く支度は30分以内で済ませる」。その通りやって、自分でそれを達成すると、「Mission Completed」のボタンを押す。すると、点数がプレイヤーに付加され、その点数を獲得できる。「指示」は、回を追うごとに「厳しい」ものになっていき、それを達成したときの点数も上がる。出勤時間の短縮ができると、次は「階段を登るとき、全ての階段を1段置きに飛ばして登る」できたら、30点。出勤途中に階段の上りが2つ以上あると、+20点が付加。「スリムで健康な身体を作るために、今日の昼ごはんは肉を一切取らないベジタリアンにする」。+40点。会社から帰ってから、スクワットを20回。+30点。そして、合計点数が20日以内に1000点を超えると、「ブロンズ・ステージ」から「シルバー・ステージ」にあがる。そのとき、「ボーナス点数」がまた付加される。そうして、点数をためていく、そういうゲームなのだ。最高位は「ゴールド・ステージ」、そしてそれもクリアすると「プラチナ・ステージ」がさらにあるが、それを達成できたのは、現在のところ世界で3人だけだ。

ある日、ゴールド・ステージになったばかりの彼のところに「2日以内に龍の刺青を背中に描く」というミッション(命令)が来た。そして翌日、彼は仕事を休んで刺青師のところに行き、「Mission Completed.」のボタンを押した。すると、画面には「おめでとうございます。後2000点でプラチナ・ステージです。今回の点数は+200点でした」と表示される。彼は、満足した気持ちになった。

翌朝、次のミッションが来た。

「自衛隊に志願する。3日以内。+400点」

彼は、翌日、現在の仕事をやめる、と社長に言いにいき、辞表を出した。その足で、自衛隊に入る手続きをした。「Mission Completed.」のボタンを押す。また、「おめでとう。。。。」から始まるメッセージが表示された。彼はまるで自分の人生が寄り良い方向に導かれているような、そんな感じがしてきた。

そんな彼が自衛隊に入って数カ月したとき、次のミッションが来た。

「自分の上官の部屋に入って、上官の机の上にネコを置いて写真を撮る。+600点。」

おかしなミッションだなぁ、とは思ったが、犯罪というほどのものではないのは明らかだ。上官の部屋に入るにも、なにもこっそり入る必要はない。堂々となにか質問に行く、ということにするなど、いくつも方法はある。しかし、それにつけてもネコなんているのか?ということのほうが気になった。と、思ったら、自分の宿舎にいつも野良猫がたむろしている場所があるのを思い出した。宿舎の管理人が毎朝、その場所で野良猫に餌をやっているところだ。そうだ、そこから持ってくればいい。

翌朝、彼は野良猫の一匹をなんとか手懐けて自室に確保。すぐに上官に電話をかけたが不在だったので、勝手に入ることにした。そして、ネコを抱えて上官の部屋に入った。すぐにネコを机の上に置いて、背中を撫でると、ネコはすぐに静かになって、すやすやと寝始めた。腹いっぱい食べて、眠くなったのだろう。彼はすぐにネコを置いた机から離れて、机の上にいるネコの写真をスマートフォンで撮影し、それをCYMに入れ、「Mission Completed.」のボタンを押した。すると、自動的に画像認識したのだろう。いつもの「おめでとうございます」から始まる表示が出た。「やった!」彼は心の中でつぶやくと、机の上のネコはそのままに、上官の部屋から出て、廊下を一目散に自分の部屋に向かった。

と、そのとき、上官の部屋で「バン!」という鈍い音がした。爆発音?いや、そんなはずは。。。。と、振り返って、廊下の向こうの、さっきまでいた上官の部屋を見たら、廊下に部屋の扉がぶらぶらと開いて動いていた。硝煙も見える。本当に爆発があったのだ。彼は間一髪でその爆発の現場から逃れたことになる。


後で聞いたところによれば、爆弾はネット経由の遠隔操作の爆弾で、その通信は無線LANで上官の部屋の無線LAN装置からインターネット経由でつながっていて、起爆装置のスイッチが入るようになっていた。爆発したのは、太ったネコの体内に仕掛けられたプラスチック爆弾だという。もちろん、上官の机の上で、ネコは粉々になっていたというではないか。つまり、これは自衛隊内に仕掛けられた、爆弾テロだったのだ。そして、彼はアプリでやっているゲームを通して、爆弾テロの実行をコントロールされていたのだ。

後で聞いたところによれば、このアプリで自殺をするようなミッションもあり、実際に自殺者も出ていた、というではないか。彼は翌日、元いた会社の社長に事情を話してその会社に戻りたい、と懇願し、受け入れてくれた。そして自衛隊を除隊した。もちろん、彼はその日からCYMをアンインストールし、今後は使わないことに決めたことは言うまでもない。

 


サイバー戦争が始まった(12) 生物兵器テロ

※本記事はフィクションであり、事実ではありません。

気がつけば、朝だった。友人の研究者から来た手紙(E-Mail)がなにを意味するのか?よくわからないうちに、夜が明けてしまった。ここは国の遺伝子の研究所で、様々な遺伝子研究をしている。添付ファイルもなく、ただ、長い説明が延々と書いてあるのだが、なにかおかしい。よく歯hっている研究者だが、数回メールをやりとりしただけの外国の研究者だ。なにを言いたくて、なにを表現しているのか?まるでわからない。考えながら読み進んでいるうちに、朝になってしまった。

全く不可解なメールだった。カフェオレの話から始まって、現在の研究のことや、全く関係のない研究論文についての文句。全く支離滅裂なメールだった。なにかの暗号か?と思ってあちこちの単語を規則を想像してつなげているうちに、これはどうやらある種のDNAの配列についてのなんらかのことを表現している記号ではないか?と思い始め、追求していたのだ。

早朝、解読に疲れて、端末をそのままにして、コンビニに朝食を買いに行った。サンドイッチにコーヒー。最近のここのコンビニのコーヒーは美味しいので評判がいい。自席に戻ると、なにかが変なのに気がついた。マウスの位置が、自分が離れたときと少し変わっている。誰かが、私がいない20分ほどの間に、PCを触ったらしい。


「やぁ。朝までいたのか。精が出るね」

朝早く出勤してきた所長のMさんが私に話しかける。

「いろいろありましてね。で、所長、この画面に見えてるこの文章、なんだと思います?」

所長が画面を覗き込む。

「わからないねぇ」

私がそれを解説する。

「実はこのめちゃくちゃな文章のセンテンスの最初の文字をつなぎ合わせると、こんな記号になることがわかったんです。これ、なんらかのプロテインの配列を書いたXMLですよね。きっと」

所長はそれがプリントアウトされた紙をじっと見て、5分。その顔が青くなるのがわかった。所長は言った。

「この文章、どこから来たんだ?誰か君以外に見た人はいるかね?」

矢継ぎ早の突然の質問、いや、詰問に近かった。なにかが起きているのを感じざるを得なかった。もちろん、今朝コンビニに行っているあいだに、誰かが自分のPCを触ったことも話した。M所長はそれを聞くと、青ざめた顔をいっそう歪めて、所長室に戻っていった。所長室では、どこかに大声で電話をしている。

「だから、これが全く誰ともわからない第三者のところに行ったことが問題です。緊急時なので、本研究所の外部との接続、インターネット接続を切ります。電話回線も切ります。以後の連絡は、私の携帯電話にお願いします。電話番号はXXX-XXXX-XXXXです!切りますっ!」

所長も静かになったが、研究所全体がインターネット接続が切れたことで、大パニックになった。研究所のネットワーク管理部は内線の電話対応に追われ、外部からは電話会社が呼ばれた。とは言うものの、一般所員や研究員は、自分持ちのスマートフォンなどでの連絡ができるので、特に問題はなかったのだが。

所内に放送が流れた。

「先ほど、問題が発生したため、所内から外部に通じる電話、インターネットは切断しています。復旧の見込みはまだわかりませんが、今日中には復旧する見込みです。また、所内と所外の方の本日の接触は、所長室隣の第一会議室でのみお願いします。そのさい、監視の要員がつきますので、ご了承ください」

翌日、翌々日も同じで、ネット接続も復旧しなかった。しかも、翌日からは研究所の周辺に電波妨害機が電話会社の手で据え付けられ、自分持ちのスマートフォンでも連絡ができなくなった。しかも、それぞれの持つスマートフォンなどの携帯通信機器の電話番号やFacebookのID、LINEのIDなども、あらためて登録させられた。これらも明確に監視の対象となったのだ。


それから1週間がたった。大阪の梅田の商店街で、何者かがペットボトルに入った液体をばらまき、大騒ぎになった。そこにいた人の何人かが、病院に運ばれ、隔離の処置がされた。

「ニュースです。さるX日、大阪・梅田の商店街で何者かが、遺伝子操作された新型のペスト菌をばらまき、現場にいた数人が感染し、国立感染病研究所に緊急搬送されました。その場にいらした、という方でかなんらかの健康被害がある方は、必ず、速やかに、ご家族の方とともに、地元の保健所、あるいは病院に行き、その旨を伝え、適当な処置を受けてください」

私はM所長に呼ばれ、説明を受けた。

「絶対に口外無用だ。君が受け取ったメールは、新型のペスト菌の遺伝子の変更情報で、普通のペスト菌以上の繁殖力と毒性を持たせるための改変遺伝子情報だ。しかも、今までのワクチンなどは一切役に立たない。私は以前、東京の国立感染病研究所でその配列を見てよく知っていたので、驚いたのだ。この新型はC国で極秘に作られているもので、世界でもその存在を知っているのは、数人しかいない。その情報が、暗号として君に送られ、何者かがその君に来たメールを閲覧し、日本国内のバイオ・テロリストに広めたらしい。この情報があれば、100円ショップで売っているような密閉容器で、コタツの上で数万人が殺せるペスト菌を製造可能だ。元になる通常のペスト菌が、先週、XX病院から盗まれた、という情報もある。情報を元に、旧型ではなく、新型ペストが国内にばらまかれているらしいのだ。このことは絶対に内緒だぞ。ここだけの話だ。既に警察の外事課、国家安全保障局などには連絡済だ。君は黙っているんだ」

私も、あのときのM所長のような青い顔になっているのがわかった。

 


サイバー戦争が始まった(11) USB充電器に気をつけろ!

※以下の記事は全てフィクションで事実ではありません。

衆議院議員Mは日本というこの国の政府の運命を決める重大局面で、キャスティングボードを握る少数会派を統括していた、その会派の事務局長だった。現在の議題は開戦か、それとも屈するか、だ。Mは積極的開戦派だ。もちろん、会派の頭は別にいる、高名な政治家Xなのだが、Xは女性でもあり、Mの繰り人形、とよく言われることが多く、実際にはMがXの言動を仕切っている、というのは、誰の目にも明らかだった。日本の政府の中でも男尊女卑はやはりまだ残っていて、女性の党首とか女性の総理大臣はまだ出ていなかった。

当然だが、政治家の持つスマートフォンなどの通信を伴う情報機器は日本政府の中でも、問題のある行動がないか?などは、しっかいとトレースされており、四六時中、政治家は当局の監視下に置かれている、というのは嘘ではなかった。

そのMの週末も忙しいことに変わりはないのだが、Mの場合は、現在介護を受けている高齢の父親がおり、その父親のところに1時間でも滞在するのが、毎週末のMのスケジュールだった。都心からクルマで1時間かかるそのMの実家は東京の奥座敷と言われる、山と平地がせめぎ合う場所にある、小さな村だ。そこに、毎週、Mの黒塗りのクルマが1時間、横付けされる。Mのその父親もまた、つい10年前まではその会派の長である、「立派な」政治家だったが、今や体は動くことができず、その会派の長を女性の後継者であるXに譲り、Mをその補佐役として据え、自身は介護生活に入ったのだ。

そんな東京の寒村にも、当然だが、無線の電話網は確実に届く。父親の介護を手伝っている1時間のあいだ、電話とメールがMのスマートフォンにひっきりなしに届く。あっというまに、Mのスマートフォンの電池がなくなる。Mが実家に到着して10分もたっただろうか。Mのスマトフォンの電池が尽きかけた、というアラームが鳴った。

「おい、親父、コンセントはどこだ?スマートフォンを充電しなきゃならない」
「ああ、ベッドの横に移動した。俺も使うことが多かったんでな」

Mは充電器をコンセントに差し込もうと、Mの父親のベッドの横にあるテーブルタップを移動しようとした。そして、そこにMの父親が使っているスマートフォンの充電器が刺さっているのを見た。すると、MについてきていたSPが手を出した。

「ちょっと、M先生。」

Mが不機嫌そうにSPを見て言った。

「なんだ。たいしたことじゃない、口出しするな」

SPはそんなMを無視して、Mの父親が使っているその充電器をテーブルタップから外し、ドライバーをクルマから持ってきて、分解を始めた。

「おい、なにしてるんだ?なにか疑いでもあるのか?」

SPは黙って充電器を分解した後、その分解した充電器を見せて言った。

「ほら、この充電器。盗聴器ですよ。見てください。ここにSIMカードを入れるところがある。これまでのここでの会話も、全て盗聴されていたと思った方がいいでしょうね」

Mはその言葉を聞いて青くなった。横になったMの父親と、さっきまで、Mの今度の国会での立ち位置について説明し、Mが今後どのように動くか、という相談をしていたからだ。

その出来事があって、翌週末。Mはまた父親のところに行ってなにやら相談事をしていたのだが、その1時間の滞在から帰るその途中、Mは交通事故で死んだ。