火を吹くUSB充電器の話

Cluster Amalilis

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私の知っている人、数人が「USB充電器が火花を散らして壊れた」あるいは「パチッと音がして壊れた、という被害に会った。ある人は、USBの充電ポートが4つあるUSB充電器に、iPadを4つつけて充電したところ、充電器が壊れたそうだ。電気のことを勉強したことがない人にとっては信じられないだろうが、こういうことは簡単に起こる。電気のことを少しでも勉強したことがある人は、そういうことは「危ない」と知っているからやらない。

実は、USBの規格と、「パソコンのUSBポートで充電できます」と書いてある機器の電源の規格を調べると、この説明には大きな不備があることがわかる。

実はUSBポートで供給できる電源の電圧は5V(ボルト)。そして、電流は0.5A(アンペア)まで、ということが普通だ(USB2.0の場合)。実は、USB1.0が出始めの頃には、USBポートでつながれたPCの周辺機器に電源を供給することは考えておらず、その規格は決まっていなかった。

しかし、USB2.0ではその規格で「最大電流は0.5Aまで」と決められた。そして、USB3.0ではこの規格は1.0Aまでとなった。現在のUSBポートの主流は、ご存知の通りUSB2.0だ。つまり、USBポートで供給できる電流は基本的に0.5Aまでとするのが適当、ということになる。とは言うものの、最近のスマートフォンでは充電の最大電流が1.0Aやそれに近いものがあるし、iPadなどのタブレット端末では2.0Aも必要なものも普通にあるのが現状だ。

電気を供給する電源は、簡単に言えば(1)「交流か直流か?(交流であるとしたら波形や周波数はどうか)」、(2)「電圧は何Vか?」、(3)「電流の容量はいくらまで耐えられるか」という3つのことが決まれば、だいたい、「電源」と「電源を使う機器」をつなげることができる。あとはコネクタなどの形状が同じものである必要があるのは当然だ。(これは「定電圧電源」という電源の場合だが、私たちが普通充電などに使う電源は「定電圧電源」だから、ここではこれについてだけ話をする)

定電圧電源では、たとえば、100Vの電圧が供給されているところに、5Vで動く機器をつなげると、たいていの場合、機器が壊れる。逆に、100Vの電源が供給されているところに、200Vで動く機器が接続されると、機器が電圧不足で動かない。

だから、「電圧」は、電源と使う機器で「ぴったり」なものを選ぶ必要がある。(1)の「交流か、直流か」も、同じで、これも規格をぴったりとあわせないといけない。ただし、マージンがとってあるから、少々電圧が違ってもちゃんと動くが、大幅に違うと動かなかったり、壊れたりする。

(3)の電流は「容量」と表現されているように、1Aの電流容量のある電源には、機器が充電などに使用する電流は1Aより低ければよい。機器の容量が電源の電流容量より小さいぶんには問題ないが、反対に電源の電流容量よりも機器が必要とする電流が大きいと、電源が壊れたり、電源が壊れる前に「ヒューズ」などが飛んだりする。いずれにしても「力不足」で、動かなくなる。

今回の事故が起きた4つのポートがついている「USB電源」の電流容量は、USB2.0の規格にあわせ、1ポートあたり500mA(0.5A)となっていた。しかし、iPadは、1台で1.2Aの電流を充電に必要とする。これを4台つなげれば、1.2 x 4 = 4.8Aの電流が電源に必要とされるが、電源は2.0Aしか容量がない。だから電源は火を吹いて壊れたわけだ。また、iPhone はiOS5以上になってから、1Aの電流を必要とするという。であれば、iPhoneを4台つなげても、やはり電源は壊れる。

前に書いたように、USB3.0の規格でも、電流容量は1.0Aまでだから、USB3.0のポートを持つPCでiPadを充電するのも危険だ、ということになる。

「でもおれ、大丈夫だったよ?」という人もいるだろう。実は、充電し終わったiPadや、充電が終了寸前のiPadは、充電のときの最大電流と書いてある1.2Aも電流を必要としない。調べたことはないが、おそらく、0.1Aも電流を取らないだろう。考えてみればわかると思うが、一生懸命充電しているからこそ「電流(=エネルギー)」が必要なのであって、充電し終わったら、そんなに電流は流れないのだ。また、まったく空のバッテリーの充電には多くの電流を必要とするものの、充電するに従って、充電のための電流は必要なくなってくる、というわけだ。iPadなどのスペックに書いてある「電流」は「iPadの電池が空の状態で充電しながら使っている」というときの「最大電流」ということになる。また、USB充電器やパソコンのUSBポートの側も、規格の通りではなく、より多くの電流を供給できるようにしてあったり、あるいは、数10%までなら過剰に電流を流しても大丈夫、という「マージン」がとってあるものも多く、「運良く」トラブルが回避できている場合もある。

ということは、iPadやiPhoneを充電するときは、まず、付属の充電器(普通はこれは機器の最大電流を供給できるように作ってある=USBの規格以上の電流が流れてもOK)で充電し、満充電、あるいは満充電に近くなったら、PCにつなぐ、というのが正しいiPhoneやiPadの充電と、PCへの接続の方法、ということになる。

簡単に言えば、iPhoneやiPad、そしてAndroidなどのタブレット端末や携帯電話、スマートフォンのUSB充電器は、こういうことをわかっていて使わなければならない、ということだ。そうでないと充電器が火を吹いて家が火事になることさえ考えられる。

本当は、iPadなどの機器の側が、充電などのときに、USBの規格にあわせた0.5A以下の電流しか使わないようにすべきだ。しかし、「USBを電源として使う限りにおいて」、メーカーはこの規格を守っていないところがとても多い。ここで見たようにAppleでも守っていない。それはUSBのように見えて、USBの規格ではない、「まったく別のもの」ということになる。

本当は、iPadやiPhoneなど、0.5A以上の電流を必要とする機器の場合は、専用の充電器以外は使えないように、コネクタの形状をUSBではないものにすべきだ。そうでないと、また「事故」が世界中のどこかでどんどん起きることになる。

日本では消費者庁などがこういうことをちゃんと規定すべきだが、まだ行政指導などがあった、ということは聞いたことがない。このUSB充電器をめぐる混乱と事故はちゃんとして法整備がなされるまで、おそらく、まだまだ続くだろう。