サイバー戦争が始まった(15) EMP攻撃

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

その日のお昼ごろ。事務所では早めの昼ごはんに行く社員がちらほらいる。11:30を過ぎると、けっこうな社員が昼休みを取るために外に出る。私も外に出たのだが、ちょうどそのとき、晴れ渡った空でなにか音がしたような気がした。それを見た人は「閃光が走った」と言うのだが、自分は見ていない。そして、行きつけのレストランで注文を済ませて、料理が出て来るあいだ、スマホを触り始めた。

が、そのときのスマホはいつもと違った。画面が真っ暗で、なにもできない。周囲を見渡してみると、他の人たちも同じようになっている。人によっては、動かなくなったスマホの画面を指で散々叩いている。誰かが大声で「なんなんだ!」と叫んだが、なにが起きたのか全くわからない。

私は「まてよ」と思いをめぐらし、レストランのウェイターの人に、言った。

「ごめんなさい、実は急用ができて、すぐに会社にもどらなければならないので、オーダーはキャンセルしてください」

私は会社に戻ると、電源を入れたまま出てきたPCの前に座った。そして、リターンキーを押し、マウスを動かした。が、だめだ。画面が真っ暗になって、なにもできない。すぐに隣の同僚のPCでも同じことをしてみたが、同じだった。

30分ほどして、社員が会社にぞろぞろと戻ってきた。聞けば、レストランが途中で閉店したのだという。注文をさばくコンピュータが壊れて、なにも注文を受け付けなくなったから、ということだった。私は「もしや」と思って、外を見た。目の前のJR山手線の線路の上で、電車が途方に暮れたように止まっている。見れば、道路でも自動車が止まって動かない。信号機も動いていない。

まさに、東京都心は「死の街」になった。全てが止まった。そこで、私は近くにいる社員を集めて、話をすることにした。

「おそらく、この地域はEMP(Electromagnetic Pulse)攻撃を受けた。そのため、あらゆる電子機器が動かなくなったんだ。今日は徒歩でしか家にみんな帰れないと思う。しかし、帰ったところで、テレビもラジオもつかないし、電気も来ていないだろう。とりあえず、収まるまで、ここにいたほうがいい」

「あと、しばらくは電話も使えない。怪我をするようなことはするな。無線がだめだから、救急車も来てくれないし、火事があっても放置するしかないだろう。」

そして、夕方には、いろいろなものが復旧を始めたのだが、業務用のデータがはいったサーバーは完全におかしくなって、メーカーのメンテナンスを受けることになったのだが、バックアップしてあったデータも消えていた。これではなにもできない。個人持ちのスマホも真っ暗な画面のままだ。途方に暮れたが、途方に暮れる以外にできることもなかった。

東京は、死んだ。


EMP攻撃とは、成層圏で核爆発を起こし、そこで発生する強力な電磁波が地上に降り注ぎ、広域ですべての電子機器が使用できなくなる、そういう「攻撃」のことだ。今やデータ通信などは当たり前の世の中になっているし、仕事ではPCも使うし、個人でスマホも使う。その全てが狂えば、全てが動かなくなる。電気もガスも水道も、今やコンピュータ制御である以上、EMP攻撃で動かなくなるだろう。

諦めたその気持ちが、諦めたまま落ち着こうとしたそのとき、上空をジェット戦闘機が轟音を立てて通過した。誰かが言った。

「おい、自衛隊は大丈夫なのか?」

実は自衛隊は大丈夫だった。というのは、前年、自衛隊はEMP攻撃に耐えられるコンピュータを全面的に導入して、ネットワークもEMP攻撃を受けることを前提に構成されていたからだ。しかしながら、庶民の生活はそれから数日、全く動かなかった。