「火を吹くスマートフォン」の原因とは

PC、スマートフォンや携帯電話、それから、太陽電池などのバックに使われる電源装置の中のバッテリーなど、充電・放電ができるバッテリーは特に、その「充放電のテクノロジー」は難しい。電源関係はデジタル技術にできるわけもなく、アナログ技術が最後まで残らざるを得ない領域だが、この領域で大切なのは「技術は年とともに蓄積していく」という当たり前のことだ。もっとわかりやすく言えば他の技術分野に比べて「革新」が非常に少ない技術分野なので「龜の甲より年の功」の技術のほうが、重要な意味を持つ、ということだ。

むかし、メーカーのカーステレオの設計をしたことがあるが、ここでも電源は非常に大事だった。24Vしかない電源をどうしてもスイッチング・レギュレータで電圧を上げて使う必要がある。これまで、自分でもいくつかの電源を作ってきたが「電源」にとって重要な部品の1つが「トランス(Transformer)」だ。しかし、このトランスをちゃんと設計し作れる技術者は「若い人」ではない。

インターネットも携帯電話も無かった時代、若い技術者だった私はある開発機器のために、「トランジスタ技術」の小さな広告を探しだして、たしか川崎だったと思うが、電源用の特注のパルス・トランスを作る小さな町工場を訪れたことがあった。テレビの古いドラマで見たのをそのまま絵に描いたような、おじいさんと、その奥さんの2人で細々とやっているところだった。

「お電話をした三田ですが」と、言って玄関を入ると、普通の家の普通の畳の居間。その横に工場担っている土間が続いている。奥さんも居間にいる。針仕事をしているようだった。

「どうぞどうぞ」と言われるままに靴を脱いで上がり、トランスが最終的にできる最後の工程が終わるまで待たされたのだが、そのうちお昼になって、お昼もその家でごちそうになってしまった。まるで自分がその老夫婦の息子になった気分だったが、世間話をしながら、トランスができるのを待った。目の前でおじいさんはトランスに線を巻く機械を使って慎重に線を巻いている。

頼んでおいた特注の試作品の数個のトランスができると、代金を払って(それも今から考えるととても安かった)その家を辞した。帰ってそのトランスの特性を測ると、ちゃんとこちらが求めたスペックになっていて、なによりも「飛びつき(電波漏れ)」の少ない線の巻き方がすばらしい、ということがわかった。まさに「職人芸」の世界だった。これを使って、放送機器に接続されるある音響関係の特注の機器を作って納入した。ノイズが非常に少ない音ができた。

電源の技術はその基本設計から、基板の設計、熱設計、コンデンサなどの弱い部品の選定など、多くのアナログ要素に満ちていて、経験が非常にモノを言う世界だ。電池の充電や放電についても、詳細なデータ取りと経験の両方が無いと、爆発事故などにすぐにつながる。スマホなどの機器用の充電・放電用のICもあるが、メーカーから供給される回路図と使い方そのままでは、まずまともな特性は出ない。経験を元に自分でデータをとって、アレンジして、実験を繰り返して、やっと使えるレベルになる。しかも電池には経年変化も普通にあり、不良品も製品となって出ていることもあり、そのサポートも電源回路がしなければならない。それをしないと、爆発事故にかんたんにつながる。

ぼくらは、絶対に爆発なんかしない、と思われている機器だからこそ、胸のポケットに入れたりする。安心してスマートフォンを顔につけて電話する。「電源の爆発事故」は、たとえ起こる確率が非常に低くても、その会社の事業や製品の売れ方に大きな影響を与えることになる。古くて小さな部分で、革新も少ない技術分野だが、その社会的影響は多大だ。だからこそ、そこにかける「保険(電源の開発費)」は、大きくなる必要が、どうしてもある。

ちなみに、ぼくが手にした範囲では、モトローラのスマホの充電・放電は良くない。電池をすぐにだめにしてしまう。しかし、台湾HTCのスマホはかなりきめ細かい充放電のコントロールをしていて、充電器をつなぎっぱなしでも電池の寿命を最大限にできているようだ。