サイバー戦争の本、2冊め

サイバー戦争を「ショート・ショート」のフィクションでわかりやすく解説した「サイバー戦争が始まるとあなたの生活はこう変わる」の二冊目を上梓しました。今回は「仮想通貨」「自動運転車」「掃除ロボット」などがサイバー戦争でどう使われるか?などについても、具体的に「このようになるだろう」という物語で、わかりやすく解説しました。

こちらです。


サイバー戦争が始まる。あなたの生活はこうなる。

Kishimojin/Ikebukuro,Tokyo

●本BLOGでのサイバー戦争に関するフィクションの記事を本にまとめました。



サイバー戦争が始まった(3) サイバー戦争、終戦。「日本のいちばん短い日」

新宿の都庁展望台より

※本記事はフィクションであり、事実ではありません。

【会社到着】
歩いて4時間。千葉の自宅から東京にやっと入ったのが1時間前。そして、時ならぬ東京観光のように、スカイツリーを横目で見て、大手町の会社に到着したのは朝6時に家を出て、午前10時だった。帰りは電車が動いていることを祈るしかない。もし電車が動いていなければ、今日は帰るのをあきらめ、明日、電車が動いてから帰ろう。もともと、妻にはそう伝えておいたから、心配はしないだろうが、家のことはやはりいちばんに気になる。

会社のあるビルに到着すると、いつも出迎えてくれていたビルの自動ドアが開いたままになっている。電力会社からの電力供給がないのでビルや地域の自家発電装置を使わざるを得ず、当然だが、節電が行われている。当然、10階にある我が社までは階段で上がるしかない。エレベーターが動いていないからだ。さすがに4時間歩き通しで疲れてはいたが、最後のがんばりだと思って、階段を駆け上がった。

会社に到着した頃には、みな同じことを考えていたらしく、同僚がたくさん会社に集まっていた。社長は来ていない。聞けば社長は大阪に出張中とのことで、新幹線も飛行機も動かないので、東京に戻れないらしい。しかも電話も不通だから、連絡もつかないとのこと。社長の家族もさぞ心配してることだろう。職場はとりあえず地域で使っている自家発電装置で動くようになっていた。テレビをつけても雑音だけだ。電波が出ていないらしい。破壊された、というよりは、明らかに全体の節電のためだろう。仕方がないので、職場に置いてある携帯ラジオをつけた。なんと、ラジオからは声が聞こえている。放送はラジオが一番仕組みが簡単で、送信する側も、受ける側も、使う電力量も一番少ない。しかし、音は聞こえるがいつものような力強さはない。デジタル波ではなく、もとのアナログ波に戻っているようだ。電波が弱く、とぎれとぎれになるところもある。おそらく、東京以外の臨時の放送施設を使い、電力も制限しているのだろう。とにかく「非常時」であることはわかる。インターネットはまだ使えない。電話もだめだ。

【ラジオでサイバー戦争が始まったことを知る】
ラジオに聞き入っていると、日本が大規模なサイバー攻撃を受けたため、電力、水道、ガスなどはプラントのコンピュータが攻撃を受け、動作不能で止まっていること、復旧は早くても今日の夜から明日朝にかけて、とのことだ。昨日も同じことを言っていたのだから、まぁ、話半分で聞くしかない。気がつくと同僚たちが私の机の周りに集まっている。仕事をしようにもコンピュータもインターネットも使えないし、することがないのだ。私のラジオの音を聞く他に、今はすることがない。

オフィスの照明はもちろん切れているので、明かりは窓から取るしかない。普段の眩しいオフィスの様子は、まるで休日のオフィスのようになった。幸いなのは、夏の暑さではなく、冬の寒さの中だから、オフィスの中にいると気密がしっかりしていると、少しあたたかい、ということだ。それでも、暖房はもちろん使えないので、私も含め、通勤時に使っていたダウンのコートなんかを着ている。明かりはない。自分の席は窓際だから、オフィスでも明るいところになる。そこでラジオが鳴っているのだから、同僚は当然私の席の周りに集まるしかない。自分の席での仕事もできないのだ。こうして時間を過ごす他はない。立っていると疲れるから、みな自分の席から椅子を持ってきて座っている。ラジオは相変わらず、「まだ復旧しません」を繰り返している。なにが?インフラ全部が、だ。まとめればそういうことしか言っていない。

【敗戦への足音】
ふと窓の外を見ると、大きなヘリコプターがこちらに向かって近づいてくる。不意に、轟音を立ててビルの上を通り過ぎ、どこかに飛び去っていった。同僚の一人が「ありゃぁ、政府専用のヘリだ。なにかあるんじゃないか?あっちは羽田空港だよ」とつぶやいた。いや、「なにかある」じゃなくて、いまそれは目の前で進行中だ。しばらくしたら、ラジオでは、首相を載せた政府専用機が羽田空港から和平会談のために、近隣のC国に向かっている、という放送があった。ラジオはさっきからニュースのたびに同じ言葉を最後に付け加えている。「国民の皆様にありましては、冷静に行動してください」。さらに、ニュースは続けて、官房長官はもう一機の政府専用機で米国に向かっている、ということを伝えた。そろそろこの騒ぎも収束を始めている感じがするニュースだ。

【敗戦】
それから5時間ほどもしただろうか。赤く沈んでいく夕日が冬の澄み切った空の向こうに沈もうとしている頃、ラジオがまた臨時ニュースを伝えた。「日本国政府は、C国に対して、戦争をする意思は現在も将来もないことを伝え、その証拠として、日本の南端にある島、X島をC国に譲渡することを伝えたとのことです。首相自らが出向き、それを伝えました。また、官房長官は米国政府へX島のC国への譲渡の合意を得る話し合いを行い、承諾を得ました」。サイバー戦争はわずか3日で終わった。日本は負けた。

【復旧】
その日の夜10時。電気は復旧し、水道も出た。インターネットも電話もつながった。明日からはもと通りの仕事が始まる。つながった電話で妻に電話した。今日は会社に泊まること、明日、昼頃に会社を出て、復旧した電車で家に向かうことを伝えた。明日は金曜日だ。いつもと変わらない、良い週末が送れるのじゃないかと思った。

会社の窓の外に目を向ければ、夕陽を背にとなりのビルの屋上のテレビアンテナの上に大きなカラスがシルエットになってとまっていた。

「おい、今夜は一杯やるか!」

誰かが背後でそう叫んだ。まだ居酒屋も開いているかどうかわからないのに、よく言うよ、と思ったので「先に行って、店が開いていたら呼んでくれ」と答え、早朝に家を出るとき以来止めていたスマートフォンの電源スイッチを入れた。

※サイバー戦争終戦後の日本はどうなるか?

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現代の戦争はサイバー戦争になる

かつて空母だ軍艦だ飛行機だという「兵器」は、なぜあんな高価なものを使ったかというと、その頃の戦争は国の政府どうしが「広大な土地の取り合い」をしていたから、その土地から莫大なお金を生むことができたからなんだね。つまり、カネをかける価値があった。

しかし、現代の戦争で土地の争奪をしたとしても、戦争で破壊された土地を復興させて「食える」ようにいするためには莫大なお金がかかることがわかってきた。極端な話、日本が全部どこかの国に戦争で占領されたとしたら、福島の復興はその占領した国の支出でやらなければならなくなる。原発の廃炉費用も、だ。

戦争に勝ったとしても、そういうことにならざるを得ない。

戦争にお金がかけられるのは、その戦争でかけた以上のお金が勝った国の手に入るからだ。しかし、現代という時代はこういう戦争はできない。であれば、現代の戦争はお金をかけずにやるしかない。また復興もできるだけ少ないお金でやらざるを得ない。だから現代の戦争は「サイバー戦争」にならざるを得ない。サイバーセキュリティで国の守りをしっかりとしなければならないし、サイバー攻撃ができるエンジニアや指揮官も揃える必要がある。

現代の戦争のフィールドは既にサイバー空間に移動したのだ。サイバー空間を制することができるかどうか?それが戦争の勝敗を決める。

 


サイバー戦争の基本とセキュリティの話

img_6265サイバー戦争の時代であるという。効果としては、たしかにICTを使った攻撃は、非常に効果が高い。まずはサイバー戦争になる以前の「普通の戦争」について考えてみよう。これまでの「普通の戦争」はいかにして起きたか。かんたんに言えば、それは「感情」で起きるものではなく、今でいう「国」という「企業単位」の規則なき競争がその発端であった。戦争で感情を煽るのは、個人的な死を予感しながら、それでも戦場に行かなければならない、という人間にとって、それが必要なものだからである。「戦争はなぜ起きるか」。この答えは「経済」であって、それ以外ではない。

第二次世界大戦以前の戦争は、そのすべてがかんたんに言えば「植民地争奪」のための戦争だった。植民地を得られれば、「国」という、現代で言えば「企業単位」のようなものの持つ「冨」を増やすことができると信じられていた。ということは、戦争にかかる費用や植民地経営にかかる費用が植民地が生み出す冨を上回るものであった場合は、戦争そのものが無意味になる。無意味になるばかりでなく「国」という経済単位の破綻を招く。しかし、いわゆる「戦前」は「植民地の生み出す冨」がその「奪取の戦争にかかる費用」よりも、必ず上回っていたし、上回るものだと信じられてきた。

ちょっと考えて見ればわかるが、植民地の財を増やさないと植民地を持つ本国の財も増えるわけがないから「植民地経営」をしなければならない。従って、植民地を得たあとにしなければならないのは「植民地への投資」であり、その投資があって、初めてリターンが得られる。軍隊というものが「金食い虫」であったのは、そのコストに勝る「リターン」が期待できたからでもある。そういう意味で、戦争とは基本的に「経済原理」によるもの以外ではない。

しかし、現代においては、「戦争」は「戦争をしない戦争」であった「冷戦(実際の全面戦争はしないで睨み合うだけ)」の時期を経て、現代は「ドンパチをしない戦争」に行き着いてきた。つまり、「戦争をせずに戦争をする」という時代に変わってきたのだ。これは、戦争による破壊で植民地を得たとしても、その経営にも多大な投資が必要になるため、現代では従来のかたちの戦争が「割に合わないもの」となってきたからにほかならない。核兵器による破壊は放射能汚染を伴い、その土地は数十年は使えなくなるし、よりお金のかからないABC兵器でこれを奪取したとしても、その後の影響はどうなるか計測し難い。戦争によって、植民地ターゲットとなっている土地の人々を「資源」として必要な労働に従事させ、土地を活用して冨を得る必要がどうしてもある。植民地支配者に対するレジスタンスもあるだろうし、それらに関わるコストもまた計算しておかなければならない。しかも現代を見渡せばわかるように、現代の戦争は「テロリズム」という名前の「ゲリラ戦」が当たり前になってきた。市街地であろうが森の中であろうが、敵はどこに潜んでいるかわからないし、それが味方の仲間内にいてもおかしくない。それらを掃討するためのコストが計り知れなく上昇しており、はっきり言ってそのコストは計測し難い。

結果として、第二次大戦ごろまで行われていた「古典的な戦争」は、勇壮に見えたとしても、コスト的にあわないものとなっているのが現代という時代なのである。

しかも、食料から製造する兵器、前線だけではなく大量に使われる電子機器などは、そのICチップから筐体、ソフトウエアに至るまで、現代では「多国籍」であることが当たり前であり、しかも複雑で不可視なものが多いうえ、「味方の地域」だけで作られているものとも限らない。グローバルなサプライチェーンが網の目のようにあって、その中ですべての国の政府なども暮らしているのだ。その国だけのものというものは今やどこにもない。国や地域どうしの「戦争」というものが無意味な時代になっている。

現代の「戦闘」は国や地域の境目を境界線として行われるものではなく「企業」という単位どうしでの戦闘にならざるを得ない。なぜならば、現代という時代は冨を持つ単位が「国」ではなく「多国籍企業」に移ったからだ。むしろ「国の政府」は多国籍企業の下請けである、と言って良い場合も多くなった。そこで、企業どうしの「戦争」は軍隊に頼らず、よりコストが低く、かつ相手に与えるダメージの大きい、それでいて、相手を打ち負かしたら、相手の人間を含めた資源をしっかりと収奪できるものとしてあらねばならなくなる。結果として、「サイバー空間の奪取」が大きな意味を持つようになったのだ。

そこで重要になるのが「サイバー空間の制空権」を防衛したり、敵のサイバー空間を破壊したり奪取できるようにするためのICTシステムなのだ。具体的には、それはセキュリティ機能に特化したアプライアンスサーバーであったり、それを自在に繰れる技術者であったり、ICTソフトウエア攻撃兵器の研究であったりする。前者も後者も、それがこれからの戦争の要となることはいうまでもない。

戦争というものの原点に立ち返り、それがなぜ起きるようになったかを考えれば、この流れは必然のものである。サイバー空間の防衛ができないものは現代では軍隊とは言わないのだ。