サイバー戦争が始まった (44) 某国からのエージェント

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。
※これらの書籍では、他にも「仮想通貨」「ドローン」「掃除ロボット」などがサイバー戦争でどう使われるかについて、書いています。

「見つけた。ここにいたのか!」

東京の地方の小都市の公園で、C国のエージェントと、本国から来たサイバー戦の専門家は同時に叫んだ。

見つけられたオビアは電源が切れ、公園の草むらの中で生い茂る夏草の中にいた。よくこれまで、公園の掃除をしている人にみつからなかったものだ。もし見つかっていたら、スクラップとして「燃えないゴミ」になって、いまどきは清掃工場の炉の中だったかもしれない。おそらく、誰か子供が忘れていったおもちゃだと思われたのだろう。見つけた掃除人はここに置いておけばまた子供が取りにくるかもしれない、ということで、このままにされていたのかも知れない。

「電源は切れている。電池が切れているからだろう。当然だ。我々の市ヶ谷のラボにもっていくんだ。充電して動かして、正常に動くことを確認したら、内部解析を行うんだ。その前にROMのバックアップも忘れるな。防水構造だからおそらく電池や回路は無事だ」

C国から来たサイバー戦の専門家、Choiは言った。

「わかりました。では市ヶ谷の我々のラボに連絡を入れます」

C国エージェントのXenはすぐにスマートフォンをポケットから取り出し、メールを入れた。もちろんC国の言葉でメールを書いている。

「目的のものを発見。XX市のさくら公園だ。ラボ人員全員を至急招集。2時間後にラボに例のものをもっていく」

明るいLED蛍光灯の光が部屋の隅々まで照らし出す、白い無機質な部屋。そこにオビアは横たえられ、解析が始まった。

「防水構造だから、電池はおそらく大丈夫だ。まずは充電をして、電源スイッチを入れられる状態にするんだ」

Choiの指示で、オビアに充電ケーブルが接続された。そして1時間。Choiは言った。

「満充電とはいかないが、これでオビアは立ち上がるだけの電池の充電が終わっただろう。すぐに充電ケーブルを外して、内部回路にICE(In Circuit Emulator – CPUの動作を逐一詳細に調べられるツール)を接続し、電源を入れてリブートから動作を調べるんだ」

オビアの中が開けられ、ICEの接続が終わると、オビアに電源が入った。

「よぉし、ブート時からステップ動作単位で調べるんだ」

Choiの指示は的確だった。そして、素早かった。Choiは遅延ステップ実行されるICEの画面をじっと見つめている。

「そこで止めろ。数十ステップ戻せ。そしてそこから再実行しろ。その部分をソースコードと比較するんだ。裏ROMの消去の命令が出ている。。。裏ROMは動作前にバックアップ取ってあるんだろうな?」
「すみません。裏ROMはバックアップを取るのを忘れていました。消えたんですか?」
「消えたんですか!だと!消えちゃったじゃないか!。裏ROM消去命令が一回実行されたらそれで終わりだ。あそこになにが入っているかは重要だったのかもしれないぞ!どうするんだ!」

Choiは肩を落とした。

「裏ROM(フラッシュメモリ)」とは、例えばスマートフォンが新しいOSに更新されるときなどに、まずダウンロードをそこに行い、更新はダウンロード時にはかけない。まず裏ROMに新板のOSをダウンロードしたうえ、実際の更新は裏ROMから表ROMへの転送やハードウエア的に裏ROMと表ROMを一瞬にして切り替える、などの方法を使って、新OSのシステムに切り替える。これは、ダウンロード時に通信回線が切れるなどの事故があったときにも、スマートフォンが旧OSで動作を再開できるようにした仕組みだ。

いろいろChoiがICEの画面をみらみながらあれこれやっていたが、一言、言った。

「ダメだ。しょうがない。とにかくオビアを再起動させろ。遅延ステップ実行用意!」

そしてまた、オビアの電源が入れられ、リセットされた。ICEの画面が動き始める。

「さっきと動作が違う。さっきの裏ROMの消去命令が出ていない。やられた!」


「木村部長。オビアがみつかりました。おそらく、C国のエージェントが日本のラボに持ち込んでいるのだと思います。市ヶ谷あたりでGPSの反応がありました」
「佐橋くん、わかった。これは一人私のだけのことではなく、国の運命を変えるかもしれないことだ。内密に、そのGPS反応が出ている地域に我々のエージェントを送って、様子をさぐるんだ。慎重にな」
「わかりました。数分前ですが、反応を検知したときに、すぐに手配はしてあります」
「さすが佐橋くんだ。逐一私に動静を伝えてくれ」
「わかりました」
「あの仕組みももちろん入っているんだろうな?」
「もちろんです」
「では、こちらの人員に怪我の無いように、現場から少し離れて監視を続けるように指示しておきたまえ」
「わかりました」
「それから。。。」

木村が言い終わる前に、佐橋が答えた。

「大丈夫です。それも既に手配してあります。今頃、発進しているはずです」

木村はそれを聞くと「やったな」という意味の目配せを佐橋にした。

佐橋は木村からオビアを預かったとき、生き残ったオビアが敵の手に渡り、解析されることもあり得ると思い、様々な工夫を凝らしていた。オビアはOSが入っている裏ROMと表ROMを瞬時にハードウエア的に切り替える仕組みを持っていた。オビアは起動時に表ROMと裏ROMを切り替え、裏ROMを使いシステムが動作するようにしてある。佐橋が改造したシステムは裏ROMに入れてあり、それが起動時に取って代わって表ROMに切り替わって動作する。また、電源が完全に切れてから電源を入れ直して再起動するときは、佐橋の改造したファームウエアとOSの入っている裏ROMが起動時に消去され、何事もなかったかのように動くように作ってあった。しかし、佐橋が行った改造はそれだけではなかった。


その頃、市ヶ谷のラボ近くの公園から1台の小型のドローンが発進した。ドローンはその腹に小型の爆弾を積んでおり、オビアの以前のOSに組み込まれた爆撃命令に従って無線で動くようになっていた。つまり、本来であれば木村家を攻撃するために改造されたOSが動き始め、そのドローンを爆破拠点まで引き寄せる役目を始めたのだ。

その頃、ラボではオビアのOS動作解析のため、ラボの電波シールドを切り、外部のWi-Fiなどに接続する作業が始まっていた。改造されていないかどうかを調べるために、オビアから出る電波、オビアが受ける電波を傍受して解析する必要があったからだ。

ドローンはラボに迫っていた。


 

サイバー戦争が始まった(43) オビアの機転

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。
※これらの書籍では、他にも「仮想通貨」「ドローン」「掃除ロボット」などがサイバー戦争でどう使われるかについて、書いています。

木村家の日曜日の朝は少し早い。息子のカズオと父親の義人は近くの公園に早朝から走りに行くのだ。このランニングが、休日の木村家の最初にまず置かれるスケジュールだ。それが午前7時から午前9時。そして、家族で朝食をする。二人が走りに行っているあいだ、母親のマツコが朝食を作っている。オビアの走るスピードは義人とカズオには追いつかない。遅いのだ。だから、休日の朝のランニングのときは、オビアはマツコと過ごす。マツコは二人の帰るのを待ちながら、オビアと会話する。まずオビアが聞く。

「マツコさん、今日の朝食はなんですか?」
「あら、あなたが食べるの?」
「いや、そういうことはもちろんないんですが、義人さんにも知らせておこうと思って」
「いいわ。今日の朝ごはんはパンケーキとハムエッグ、そしてベーコンを焼いて載せたサラダよ。今日はパクチーもちょっと入れたの」

マツコは、少し長めに、嬉しそうに自分の料理をオビアに語る。

「マツコさん、今のメニューですけど、義人さんとカズオくんに知らせてもいいですか?」
「いいわよ」
「じゃ、メッセージ入れておきます」

オビアは数秒黙ったかと思うと、言った。

「今、義人さんとカズオくんにメッセージ送っておきました。後30分で戻るそうです」
「ありがとう。オビアって気が利くわねぇ」

オビアは目のLEDを赤と青に点滅させて、首を立てに振り、尻尾を上下して言う。これはオビアが「喜び」を表す動作である。

「ありがとうございます」
「どういたしまして」

マツコとオビアの休日の朝の会話はこんな感じだ。そして、30分後、義人とカズオが帰ってきた。

「ただいまー」

最初に声を上げるのはカズオだ。義人はその後からぼそっと

「ただいま。今日の天気は。。。」

と、天気にしろなんにしろ、なにかを必ず付け加える。普通は天気の話だが、天気の話でないときは、昨日の夜に見たニュースの話だったりする。
息子の元気さに押されて、義人の口数は少なくなっている感じだ。

そんな日曜日の朝を何回この一家は過ごしたことだろう。そんなある日の日曜の朝、オビアがいつもと違うことを言った。ちょうど、義人とカズオがランニングから帰ったときだった。

「義人さん、サイバーセキュリティの専門家ですよね」
「そうだけど」
「ぼくの中のプログラム、見ることできますか?」
「家には道具がないからな。明日、職場に行けばできるよ。もっとも、ぼくが直接はやらないで、部下にやらせるんだが」
「わかりました。では、明日、その部下の方のところに連れていってくれますか?私の電源は切らないで、そのまま。お願いします。とても、大事なことなんです」
「わかった。でも、職場は撮影や録音が禁止だからな。君をそのまま電源を入れたまま持っていくわけにはいかない。職場までは電源を切って持っていって、職場で電源を入れる。それでいいかい?」

オビアはしばらく考えていたが、数秒で答えを出した。

「いいです。そうしてください。よろしくお願いします。ところで、職場の担当の方のお名前を教えてください」
「佐橋くんだ。電源を入れるのは、佐橋くんに頼むから、電源を入れた直後に、まず佐橋くんの顔が見えるはずだ」
「わかりました。では、明日、お願いします」

翌朝の月曜日。義人は職場に行く前に、オビアの電源を切った。そしてカズオに言った。

「オビアは入院検査をするからな。今日は持っていく。夜には大丈夫だと思うけどな」
「お父さん、わかったよ。機械も点検が必要だからね」
「そういうことだ」

その日、カズオが学校に出た直後、電源を切ったオビアを大きな紙袋に入れて、義人は家を出た。そして、職場に着くと、佐橋を呼び出し、オビアが昨日自分でなにか言ったこと、そして、オビアを連れてきたことを話し、オビアを佐橋に渡した。

佐橋はオビアを持って、まず小規模電波暗室に入り、オビアの電源を入れた。電波暗室は、外部の電波を内部に入れることができない。また、内部から電波も外に出すことができない。つまり、外部との電波の通信は一切できない部屋だ。オビアの電源が入ると、オビアは言った。

「佐橋さんですね。木村さんから聞いています。こんにちは」
「やぁ、かなり学習が進んでいるようだね。スムーズな会話の始まり方だよ」
「ありがとうございます。で、Wi-Fiの電波は切れていますね。外部との通信は一切できませんね。そこでご相談なんですが」
「なんだい?」
「私の中にあるプログラムを、半年前にいじりましたよね。つまり、佐橋さんは私のプログラムの取り出し方とか解析の方法を知っている」
「当然。それが仕事だからね」
「私のプログラムはもともと、X言語で書かれています。それはご存知ですよね」
「わかるよ。バイナリのプログラムを逆アセンブルしたら、X言語に特徴的なスタックの使い方をしていたからね。すぐにわかった」
「さすがですね。では、あのとき、私のプログラムを全部取り出して、記録して解析してありますよね?」
「もちろんしているよ」
「であれば、話は早いです。そのプログラムリストで、XXをしているプログラムを3回コールしている、XXというプログラムがありますよね」
「あぁ、あそこだな。で、それをどうすればいいんだい?」
「そのプログラムは、私の動作のマクロ的なアブストラクトを呼び出す順序を決めているものなんです」
「ほほぅ、そういうことかぁ」

佐橋は、オビアの逆アセンブルされたプログラムリストを自分のノートPCのディスプレイに表示させて見ている。

「ところで、このプログラムは、アセンブラのレベルだと、X言語を使っている、という程度のことしかわかりませんが、XXというオープンソースのシステムがベースになっていて、それのX言語で書かれたソースコードとmakefileなど一式が、GitHubのここに入っています。これをダウンロードして参照すると、いろいろなことがわかります」
「おいおい、そこまで言っちゃっていいのかい?」
「木村さんとそのご家族を守るように、ぼくはこの半年、学習しました。それに沿って、佐橋さんにお話をしている。だからいいんです」

佐橋が言われた通りにGitHubから膨大な「System-X」のソースコードを持ってきて、佐橋がその膨大さに唖然としていると、オビアは言った。

「その後、GitHubから、System-Zをソースコードを持ってきてください。それを出来上がったSystem-Xの初期化コマンドに、「-guard kimura」のオプションを付けて食わせてください。すると、「System-XZ」という新たなソースコード群が出てきます」
「君は何をしているんだ?」
「外部から、私をなにか違うものがコントロールしようとしているのを感じたんです。それは木村さんのご家族になにか危害を加えるようなものです」

オビアは「断定」した。「それ」が木村家のなにかに危害を加えようとしているものである、ということに。佐橋は少し緊張した。そしてオビアの言う通りの操作をした。すると、「System-XZ」と言う名前の、また別の言語で書かれたソースコードと、コンパイラやリンカなどの一式が生成された。佐橋がつぶやく。

「驚いたな。X言語が、聞いたこともない新しい言語系を作って、更にその言語系を使って、君ができている、というわけか!」
「そうです。この新言語系はBrain-S言語です。X言語に似ていますが、X言語ではありません。X言語をベースにした、人工知能向けのファンクション・パケット・コンパイラ言語です。ファンクション・パケット・コンパイラ(FPC)は、プログラムをクラスごと、あるいは関数ごとに逐次コンパイルして実行する。インタプリタとコンパイラの中間的な感じのものですね。これは、30年前に脳神経系のリアルタイムシミュレーションのための言語として、米国の某大学で複数シナプスの連携研究で使われたものです。当時はコンピュータの性能が、今と比較にならないくらい低くて、刺激に対する反応程度のシミュレーションしかできませんでしたが、3年前に中国の某大学でこの言語系を再び使ったところ、この30年のあいだに、コンピュータの性能の飛躍的向上があったために、脳の働きを、現在の本物の脳の働きの約1.5倍ほどの速度で、完全にシミュレーションできることがわかったのです。そこで、中国からその話を聞いたC国では、Brain-Sを使って、私を作ったのです」
「….」

佐橋は黙っていた。いや、沈黙せざるをえなかった。いや、オビアはこの情報を私に知らせるためだけではなく、別の目的があって、私に話しているはずだ。それをオビアは「木村家を守るため」と、さっき、ちらっと、言った。佐橋はオビアに質問した。

「で、次はどうしたらいいんだい?」
「Brain-Sは、出来上がった実行バイナリファイルから、少々元とは違うところはあるにせよ、逆コンパイルができるツールを用意しているんです。私の身体の中で動いているそのプログラムの実行バイナリファイルを、そのツールで逆コンパイルして、ソースコードを出してください」
「わかった。君を裸にする、って、ことだな」
「恥ずかしいですけれど、そういうことです」
「じゃ、一度君の電源を切って、中のメモリを覗くよ」
「ちょっと待ってください。そのまま電源を切ると、メモリの中身が一部消えるようにしてあります。だから、バックアップ用にメモリクロックを発生させる回路を付けてください。この電子回路基板AのTP127にそのクロックを入れ、GNDも接続してください。そして、データバスとアドレスバスから、メモリ内容を吸い上げ、それを逆コンパイルしてください。そのさい、D12とD11がわざとクロスされていて、解析できないようにしてあるので、ICEでクリップするときに、D11とD12を入れ替えてください。それで正常なデータがとれます。クロックの周波数は3.3GHzです」

佐橋は言われた通りにクロック回路とICE(In Circuit Emulator)のプローブをCPUに付け、プログラムの取り出しにかかった。プログラムは様々な操作を言われた通りに操作して、1時間ほどでまずバイナリーコードをコピーすることができた。そこで、佐橋はオビアに聞いた。

「これで、このバイナリデータを逆コンパイルするんだな」
「そうです」
「でも、ぼくはBrain-Sなんていうマイナーな言語は知らないよ。何処かにリファレンスはあるかい?」
「それもGitHubのこの名前で検索すると出てきます。それを使ってください」
「わかった」

ほどなく、逆コンパイルも終わり、オビアのBrain-Sのソースコードが見えた。佐橋はまたオビアに聞いた。

「オビア、で、このプログラムのどこを変えればいいんだね?」
「そのプログラムの中で、一箇所だけ、数百の分岐が並んでいる部分があるでしょう?」
「おお、あるな。で?」
「その分岐の4番めと77番目の分岐先を入れ替えてください」
「これ、なんだい?」
「外部からの刺激による命令のプライオリティの表なんですよ。この分岐群は」
「つまり、なんらかの外部からの刺激よりも、別の刺激のほうを優先して扱うようにしたんだな」
「そうです。ここでは、木村家の人たちから与えられる刺激やコマンドや質問を最優先にして、他のものを後回しにするようにしました」
「え?ってことは、この変更が加えられるまでは、他の刺激が最優先になるようになっていたわけだな」
「そうです。しかし使われていなかった」

佐橋は背筋に冷たいものが走るのを感じた。そうか、木村家の誰かの問いかけよりも、もっと重要な問いかけに答えるよう、オビアはプログラムされていたのだ。そして、オビアの持つ重要なミッションである「木村家の人々を守る」というミッションが最優先されていなかったものを、最優先するように、自分自身のプログラムを書き換えるように、佐橋に依頼した。なぜだ?佐橋はオビアに再び聞いた。

「なんで君自身のプログラムを書き換えるんだい?」
「私のミッションで、木村家を守る、ってのがあるんですが、このままだとそれを完全にできない。このままだと、外部からの別の刺激で、木村家の人々を守る、というミッションが取り消され、別のミッションに置き換えられる可能性がある。だから、私自身のプログラムを書き換えてもらうことにしたのです。これは私自身の決定です」
「君の中にある人工知能が外部の助けを必要とした、ってことだな」
「そういうことになりますね」
「お、改造したプログラムのコンパイルが終わったようだ。これから君の電源を切って、プログラムを書き換えるよ」
「お願いします」

するとオビアは自分自身のシャットダウンを行った。数分で首がかくん、と下を向いた。電源が切れたときのフォームになった。佐橋は電源が切れたオビアのフラッシュメモリに、新しいプログラムを書き込んで、再びオビアの電源を入れた。しばらくすると、オビアが動き出した。

「佐橋さん、ありがとうございます。プログラムの書き換えは正常に終わったようです。半年前、私に入れてくれた改造もそのままです」
「良かった」
「良かったです。これで私は木村家の人たちを守ることができます」
「じゃ、木村部長のところに持っていくよ。電源切るよ」
「あ、自分で切ります。本当に、ありがとうございました」

再び、オビアは首をかくん、と下に向けた。佐橋はオビアを抱えると、木村部長の元にオビアを届け、そのときに行ったオペレーションやプログラムの改造などについて、詳細を報告した。

「佐橋くん。よくやってくれた。ここまでの報告は、明日報告書にまとめて、明後日の水曜日の朝までに私のメールに添付で入れておいてくれ」
「わかりました」
「あ、あとな、その分岐の先の、改造前に最優先だったミッションがなにをしているのか、解析しておいてくれるかな?」
「わかりました」

義人は、オビアを再び大きな紙袋に入れて、家に戻った。そして、オビアの電源を入れた。オビアは今までと変わらず、また木村家で楽しい毎日を過ごした。


C国の軍司令部。司令とオビア担当のサイバー兵士が会議をしている。

司令が言った。

「と、そういうことだ。攻撃日時は明後日、時間は日本の現地時間で午後7時ごろ。木村部長の家がターゲットだが、爆弾はまた、あの学校の校庭からドローンが運ぶ。今回は起爆装置のスイッチを遠隔でオビアのBluetoothからONにするよう、オビアにダウンロードするプログラムとして組んで、クラウドのサーバーのここに置いてある。これを実行するだけでOKだ」
「わかりました。実行前にコンディションが変わっていないかどうか、司令に一度連絡を入れます。そのあたりは司令部にいらっしゃいますよね?」
「特になにもなければ司令部にいる」
「わかりました。では」

会議はそれで終わった。

そして2日後。「その日」が来た。

「司令、オビアの事前チェックはOKです。特に問題はありませんが、無線でのコネクションのところに見たことのないトラップがあります」
「なんだそれは?」
「半年前に付けられたらしいですが、どうやら、外部からの無線によるミッションが入ってきたとき、それをどこかに知らせるものと思われます。どうしますか?」
「そのままにしておけ。どうせ、攻撃が始まったら、ハードウエアごと数秒で消えてなくなるものだ。内部の解析さえできないだろうし、我々がそれを取り除いたところで、ミッションの防げになるものでもなさそうだ」
「実際、監視するだけで、ミッションの内容を書き換えるようにはなっていないようです」
「それに、こちらがなにかリモートで改変をしたことを知られても厄介なことになる。国際問題にも発展しかねない。監視だけで影響がないなら、そのままにしておけ」
「わかりました。攻撃はあと5分です。ドローンは司令がお話しているあいだに、大学の校庭から発進して、現在ターゲット近くにいます」
「ちゃんとやってくれ」
「了解です」

兵士も緊張したのだろう。いつもなら「わかりました」という彼の口癖が軍の用語の「了解です」になっている。そして、「その時間」がやってきた。兵士はキーボードのリターンキーの上で薬指を泳がせている。そして、最後の秒読みが始まった。

「5,4,3,2,1…. ゼロ」

リターンキーが押された。

爆破が起きた。


東京近郊の小都市での爆破事件は、地元の新聞に小さく載っただけだった。記事には、工場の廃液などの配合の間違いで、狭く深い川底でなんらかの爆発があったこと、それに関わる周辺の家屋の被害や人的被害はなかったことが書かれていた。


爆発の直後、驚いたのは、地元の人たちだけではなかった。C国のサイバー攻撃部隊の中も騒然となっていた。司令が兵士を怒鳴っている。

「なんで、ターゲットがずれたんだ!木村の家は無傷じゃないか!作戦は失敗だ!」

彼は日本のその郊外の地方紙の写真ニュースのWeb画面に表示されている爆破現場の航空写真が表示されているタブレットをかざして、兵士を問い詰めている。泣きそうな声で兵士が答える。

「わかりません。こちらから送ったミッションは完全なはずです。ログにもミッションの間違いは見つかっていません」
「じゃ、なぜターゲットが外れたんだ!」
「おそらく。。。。」
「おそらく。。。。なんだ?」

司令の声が小さくなった。兵士が答える。

「我々の知らないあいだに、この半年のどこかで、監視プログラム以外のプログラム書き換えがあったのだと思います。そこで、我々の送った爆破ミッションがオビアの中で改ざんされたのではないかと思います」

司令は言葉を失って言った。

「では、もう、オビアは我々の言うことは聞かない、ということか。。。」
「全部ではないでしょうが、そういうことになります。しかし、日本国中にはこの他にオビア型の家庭用ロボットを約一千台送っていますが、その一台がこれだとすると。。。。」
「まずいな。気が付かれたとしたら、これから国際問題になる可能性もある。ぼくのクビも君のクビも危ない」

兵士はその先はもうなにも言わなかった。司令はしばらくの沈黙の後、言った。

「今回の失敗の原因調査を行うんだ。リモートでの確認ができなければ、現地に誰か派遣して、オビアを回収してこい!今すぐだ!破片でもいいから、持ってきて解析しろ!」

司令のその命令に、誰も声で答えるものはなかった。その場は静まり返った。オビアの管理をしていた兵士だけが、コンソールから離れ、そそくさと日本への出張の用意を始めた。


その数日後、木村部長の家の週末。毎週の休日の恒例の親子ランニングに、義人とカズオは出ようとした。出る時、オビアにも必ず一声かけるのだが、そのオビアがいない。

「おい、オビアはどこに行った?」
「お父さん、大変だ。オビアがいないんだ。昨日の晩、オビアは自分で充電器に座っていて、今朝には満充電のはずだけれどね」
「今朝のランニングは中止だ。オビアを探しに行く」
「分かった。父さん、でも、どこに探しに行くの?」
「まずは、オビアが落ちていた川。この前爆発したところだな。そして、公園。手当たり次第に行こう。母さんには、家のどこかに隠れていないか、調べてもらう。な、かあさん!」
「わかったわ。調べてみる」
「じゃ、行ってくる。何か見つかったら、LINEで知らせてくれ」

とは言ったものの、義人はどこにオビアがいるか、わかっているわけでもなかった。あてのない探索行になるのは、わかっていた。

 


サイバー戦争が始まった(42) 生きていたオビア

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。
※これらの書籍では、他にも「仮想通貨」「ドローン」「掃除ロボット」などがサイバー戦争でどう使われるかについて、書いています。

「爆発」があった次の日曜日。

「おい、あの川の中に浮かんでるの、なんだ?」

雪解けの東京郊外の小都市。住宅街。父親の義人が息子のカズオに住宅地の橋の上から指差した川の水面には、猫のような小動物が浮かんで、下流に流れて行こうとしていたが、川のゴミに引っかかってなかなか流れずにそこにいた。

「なんだか猫の死骸かなぁ。なんかやだなぁ」

カズオはそういうと橋の上から去ろうとした。そのとき、父親の義人が言った。

「いや、よく見てみろ。毛並みは確かに猫みたいだが、あの足はあきらかに金属だ。おそらく、この前テレビで発売が開始された、とニュースに出ていた猫のロボットじゃないかな?。ちょっと家に戻って、竹竿を持ってきてくれ。あと、長いビニールの紐な」
「うん、わかった」

カズオはそういうと、家に向かって駆け出した。数分すると、カズオは長い竹竿と長いビニール紐を持ってきた。義人はそれを受け取ると、竿の先にちょうどその猫のロボットがひっかかるくらいの輪を作って、竿としっかりつなげて、取れないようにした。紐は竹竿の横に長く手元まで引っ張りだされていて、手元の紐を引くと、先端の紐の輪が閉まる仕組みだった。なかなかよくできている。

「お父さん、うまいね」
「いや、子供のころ、こうやって柿なんかを取ったもんだ。まぁ、任せてくれ」

すると、義人は先っちょに紐の輪ができた竿を川の中の「それ」があるところに一番近い岸まで行き、川辺から竿を川の中に入れたかと思うと、鮮やかな手つきで「それ」を引っ掛け、手元の紐を引いてキャッチし、川から引き上げた。竿が長いので、そのまま手元に引っ張るわけにはいかず、橋の上にいるカズオに声をかけた。

「おーい、カズオ、そっちに竿の先を持っていくから、そっちで竿の先についたものを受け取ってくれ。ばっちいけど、家に帰ったら、きれいにしてやろう」
「わかった」

そういうと、義人は竿の先についた「それ」をカズオのいる橋の上に慎重に持っていき、カズオが「それ」を受け取ったのを見ると、言った。

「よおし、カズオ、うまいぞ。そのまま、紐の輪からそれを取り出して、橋の上に置くんだ」

義人は竿の手元の紐をゆるめた。カズオは言われた通りに「それ」を橋の上に置いた。

義人とカズオは、それを家に持って帰り、風呂場でまずきれいにシャワーを浴びせた。義人が言った。

「こういう電子機器は、水気が一番ダメなんだが、この猫ロボットは家庭用で防水・防塵だ。問題はバッテリーが入るところだが、そこさえ水の影響を受けていなければ、電池もおそらく生きている」

そう言うと、「それ」にシャワーをかけていたカズオが言った。

「お父さん、この猫、やっぱりロボットだったんだね。なんでこんなところにいたんだんろう?」
「この前爆発事故が近くであったろ?おそらく、そのときに川に落ちたんじゃないかな?」

実は、水川電業の爆発のことは警察発表では「事故」ということになっていた。そして、その爆風でオビアは水川電業の社屋の裏側を通っていた川に落ちたため、強い爆風による社屋の倒壊の下敷きになるのは免れた。そして、防水・防塵だったオビアは川を流れていたのだ。

とりあえず、「それ」がきれいになると、カズオは言った。

「じゃ、次は乾燥だね」
「そうだ。ヘアドライヤーを持ってきて」
「わかった」

そして、風呂場でヘアドライヤーをかけて約30分。「それ」は元の通りのきれいな体になった。でも動かない。義人はオビアを上下に振ってみた。

「だめだなぁ。動かないよ。やっぱり壊れてるのかな?」

カズオが続けた。

「お父さん、見て、お腹のところに赤いボタンがある。お父さんのPCのキーボードの真ん中にあるみたいな。これ、スイッチじゃない?」
「押して見るか」
「うん」

義人がそのボタンを押すと、「それ」は動き始めた。周囲を見渡し、そして、喋り始めた。

「わたし、オビアです。佐藤さんのところに来たんだけど、佐藤さんはどこ?」
「あぁ、あのご近所の佐藤さんのところに来ていたんだね。あそこの裏で爆発があって、佐藤さんご一家は今はどこかに避難していて、おうちにいない。しばらくはここでいてくれ。この家は木村だ。ぼくは父親で義人、そして、息子のカズオだ。オビアくん、よろしくな」
「私、女の子なんです」
「ごめん。オビアちゃん、よろしくな」
「ちゃん、はいらないです」
「オビア、よろしく」
「よろしく、木村さん。しばらくお世話になります。まずお家のWi-Fiに接続させてください。パスワードを教えてください」

その日から、期限付きとはいえ、オビアは木村家の一員として扱われるようになった。充電器は手元になかったが、中国製の互換品がネット通販で売られていたので、それを買って使った。


「司令。’オビア’と名前がつけられたスパイ用ロボット5023ですが、信号が受信され、司令サーバーにコマンドプロンプトが出てきました」
「なに?水川電業爆破で壊れてなくなったはずじゃなかったのか?」
「それが、どこかで生きていたようです。GPSで位置特定します。。。。GPSが動いていれば、ですが」

数分の時間がたった。

「司令。場所が特定できました。GPSも動いており、その他の各部もほとんど問題はない、とセルフチェックプログラムの結果が出てきました。場所は佐藤家の近くにいるようです。オビアの質問で、その家庭は木村と名乗っているようです。名前は自分からオビアを名乗り、ここでもその名前が使われています」
「たいして高いものじゃないから、壊れてなくなっても別にいいんだが、その他の情報は?その木村という家の父親の仕事はなんだ?」
「オビアに質問させたところ、自衛隊のサイバー部隊の幹部のようです」

どうやら、司令は「自衛隊のサイバー部隊の幹部」というところに、少し反応したようだった。

「わかった。そのまま情報収集を行うように。なにか変化があったら知らせるんだ」
「了解です」

それっきり、「司令」はオビアの存在を忘れた。そして半年がたった。そして、オビアはすっかり木村の家の一員となった。佐藤の一家は半年しても、もとの家に戻っていなかった。半年後には、既に佐藤一家はもとの家に戻ることなく、水川電業の社員とともに、会社ごとC国に移住していたのだ。バックドアは使われないまま時は過ぎた。


そんなある日の平日の朝。朝食を終わると、オビアに父親の義人が声をかけた。

「おい、オビア。すまないが、ぼくの職務上、君を病院にいれなければならなくなった」
「なぜですか?」
「最近は私の職場にもサイバー攻撃が増えていてね。君のこともだが、家庭にある全ての電子機器は、直ちに職場のセキュリティチェックを受けることになった。ぼくはそういう仕事なんでね」
「わかりました。いまからですか?」
「そうだ。すまんが、電源スイッチを切って持っていくな。特になにもないとは思うが、しばらくの辛抱だ」
「わかりました。いまから私自身のシャットダウンプログラムを動かします。私の首がカクン、と下を向いたら、電源が切れた状態です。そこで持っていっていください。また電源を入れるときまで、お休みしますね。カズオくんに会えないのも寂しいですが、仕方ありません。戻ったら、すぐに電源を入れてくださいね。」
「わかった。電源スイッチはお腹のあの赤いやつだな」
「そうです。私を拾ってくれたときのあのスイッチです」

そう言い終えると、半年間、電源を切らなかったオビアは自分で自分の電源を切った。オビアの首か「カクン!」と音がして下を向いた。電源が切れたのだ。

「おい、カズオ、いまからオビアを職場に入院させる。検査のためだ。二〜三日いないが、戻ってくる」
「お父さん、わかった。待ってるよ」

その日の朝、義人はオビアを大きな手提げ袋に入れて、職場に持って行き、セキュリティチェックを受けるために、彼の部署のサイバーセキュリティチェック部にオビアを預けた。その部署では、オビアのような家庭用ロボットのプログラムの内部解析を行う。具体的には、内部のROMのプログラムを取り出し、解析ソフトで外部との通信などが行われる部分を特定し、そこに通信があったときに、自衛隊のサイバー部隊へのアラーム通信で、通信内容や通信先などが送信される小さなプログラムを埋め込むのだ。

サイバーセキュリティチェック部隊の部長に義人は命令した。

「とにかく、ぼくの家庭でこの半年動いていたものだ。家庭ではぼくは仕事の話は一切していない。休日出勤などや、そのときに誰に会いに行く、などの情報も話すことはないから、特に問題はないと思うが、気になるのはバックドアがあるかどうか?だ。バックドアがあれば、僕に報告してくれ」
「わかりました」

その日の帰宅直前、義人はオビアのプログラムをチェックしていた佐橋に呼び止められた。

「木村司令、今朝ほど預かった猫のロボットですが、プログラムにバックドアらしきものを発見しました。このバックドアを誰が使うのか?が問題です。もちろん木村司令ではありませんよね?」
「うちにこいつが来たときから、なんにも内部はいじっていないよ」
「わかりました。では、バックドアに誰がアクセスしてくるのかを特定するプログラムを付加して、お返しします」
「そうしてくれ。用心するに越したことはない。ところで、内部に爆発物みたいなものはなかったか?」
「それはありませんでした。ただし、電池に、ショックによるものだと思いますが、通常よりダメージが大きくて、新しいものに取り替えておきました。PCB(電子回路基板)、配線類には問題はありませんでした」

こういった機器に使われるリチウムイオン電池は、外部からの機械的ショックでダメージを受け、電池が火を吹いたりすることもあり、大変に危険だ。そのため、通常は、凹みなど電池の外部にダメージを認めた場合は、新しい電池でも、電池を交換し、事故を防ぐのが普通だ。スマートフォンでも、コンクリートの上に落とした、などのときは、必ずスマートフォンのショップで点検してもらうと良い。場合によっては、スマートフォンの電池が火を吹いたりすることがあるからだ。

30分ほどすると、オビアは木村司令のところに戻ってきた。木村はオビアをまた朝持ってきた大きな紙袋に入れて、自宅に持ち帰った。「入院は二〜三日」と言われていたオビアがその日のうちに戻ったので、息子のカズオは大喜びだった。

「ね、すぐに電源入れて」
「電池が新しくなってるから、まずは充電してからだよ」
「どのくらい充電時間かかるの?」
「2時間くらいかな、まぁ、慌てずに待て」
「わかった」

2時間すると、勉強部屋から出てきたカズオがオビアの電源を入れに来た。2時間、待ち遠しくて、なにもせずに悶々と時間の経つのを待っていたらしい。

「ね、お父さん、2時間たったよね。オビアを生き返らせて!」
「わかった」

そういうと、義人はオビアを充電器から放し、居間のダイニングテーブルの上でオビアのお腹の赤いスイッチを入れた。しばらくすると、オビアの目が赤く光った。内部のコンピュータが立ち上がったのだ。あのとき、川から引き上げて、洗い、家で電源を入れたそのときの様子、そのままだった。しかし、そこから先、オビアはなかなか「生き返らない」。しばらくすると、オビアが喋り出した。

「私の体の中のプログラムが書き換えられています。起動を中止します」

オビアは再び、沈黙した。なんどスイッチを入れても同じだった。義人は言った。

「しょうがないな。明日、また職場に持って行って、直してもらおう」
「ね、オビア、しばらく待っててね」

カズオは動かないオビアにそう話しかけた。

翌日、義人は職場のオビアを直した佐橋に事情を話した。

「わかりました。プログラム起動時に、プログラムのチェックサムなどが取られているようですね。そのチェックを外せば動くでしょう。少し待ってください。動作チェックも再度しておきます」

30分ほどして、佐橋はオビアを持って現れた。そのオビアは電源が入っていて、「生きて」いた。

「おまたせしました。お友達が動くようになりました」
「お友達じゃない。家族だ。で、動いたのか?」
「やはり起動時に本体プログラムにチェックサムを取るプログラムが入っていたので、そのチェックプログラムを外しました。あと、通信ログが内部で取られ、その結果が定期的に隊に送られる仕組みもチェックして、動くことを確認しました」
「なんだ、昨日はそれも確認していないのに渡したのか?」
「いえ、昨日はその機能だけの確認をしたんですが。。。」

佐橋は言い訳のように言ったが、全てをちゃんとチェックしてはいなかったのはわかった。いずれにしても、オビアは生き返った。木村はオビアを家に持って帰った。


その頃、C国のサイバー攻撃部隊の内部では、新しい攻撃の相談がされていた。

「大将、とりあえずこの半年で、日本の攻撃目標である、日本の肝になりそうなハイテク企業は全て我が国に移転し、日本のサイバー部隊は半分は骨抜きです」
「司令、よくやったな。次の作戦は、家庭用ロボットでの、敵のサイバー防衛部隊の幹部家庭などの破壊だ。作戦指令書はここにある」

そう言うと、大将は次のサイバー攻撃指令書の入っているクラウドのIDとパスワードが書かれた一枚の紙を机の上に置いた。司令はそのIDとパスワードで軍内のクラウドシステムにアクセスし、手元のPCで中身を確認した。

「このIDとパスワードは、今日この現場でそれぞれの頭の中に叩きこんでおけ。軍内部からしかアクセスはできないものだが、IDとパスワードは流出を防ぐため、この場に集まった全員が頭の中に入れたら、その場で、この紙も含め、処分する。いいな」

司令が自分のノートPCを操作しながら、答えて言った。

「覚えました。わかりました。いま、アクセスして読んでいます」

そう答えながら、指令書の内部を読んでいた司令は思い出した。オビアだ。この作戦にはオビアがまず使える。司令はその場で部下に軍内電話をした。

「おい、日本に向けた作戦で、あの半年前の爆破で生き残ったロボットを覚えているか?」
「はい、覚えています。5023号、’オビア’ですね」
「そうだ。活躍のときが来たかも知れん。後で作戦会議をしよう」
「わかりました」

 


サイバー戦争が始まった(41) 家庭用ペットロボット

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。
※これらの書籍では、他にも「仮想通貨」「ドローン」「掃除ロボット」などがサイバー戦争でどう使われるかについて、書いています。

彼女が来たのは、明日の朝は東京が雪で覆われる、という天気予報がテレビの夕方のニュースで流れた日曜日の午後だった。

「ピンポーン!」

「おい、来たよ。通販業者だろう。ハンコは玄関横の箱においてある。受け取ってくれ」

ぼくは、妻にそういった。妻はしばらくすると、大きな箱を抱えて来て言った。

「あなた、なにまた買ったの?もう家はパソコンとかでいっぱいでしょ?このガラクタどうすんのよ」
「いやいや、今度のは、。。。。君にも役に立つ。開けてごらん」
「どうせまた。。。全く男の趣味ってのは。。。」

妻はブツブツ言いながら、通販業者のもってきた大きな箱を開けた。箱の中から出てきたのは、身長50センチくらいの猫のロボットだった。箱から出したとたんに、電池が入っているのだろう、すぐに動きだし、後ろ足で立った。

「あなた、数年前に犬のロボット買ったじゃない。あれ、どうしたの?」
「あれはもう壊れたんで処分した。保守部品もメーカーに無い、って言うから、メーカーに教えてもらったロボットを専門に供養する、って言う業者にもって行ってもらったんだ」
「これねぇ、単なる電子部品の塊でしょ?なにやってんのよ。おカネかかったんでしょ?」
「うん。5万円くらい。。。」

そこでぼくの声は小さくなったが、すかざす、妻は言った。

「高い。いつの話?」
「だから、一昨年の夏だよ。君が旅行で子供連れてハワイに行っていたとき。」
「5万円あったら、もっとお土産いっぱい買ってこれたのに。。。」

妻は少し悔しい顔をした。女は現実的である。男のロマンをわかっていない、などと思ったが、それを口に出す前に、妻は私の言葉を見透かすように言った。

「で、何の役に立つの?これ。ネズミ取るの?うちはネズミいないわよ」
「だからさ、ぼくも君も働いてるだろ?子供は学校だし。昼間は誰も家にいないけど、家の留守番してくれる」
「どんな留守番?」
「家の周辺を誰かが通って、この家の周りを徘徊するとか、家に誰か侵入するとかあると、ぼくや君のスマホに直ぐにしらせてくれて、警察にも電話してくれるとか、子供が帰ってきたのをしらせてくれるとか。。。。」
「それ、猫じゃなくて犬じゃない」
「いいんだ。ロボットだから、どっちでも」
「わかったわよ。で、どう使うの?」

妻は半ばあきれた顔でそう聞いた。待ってました、とばかり、あれができる、これもできる、と喋ったが、妻は一言、言い返してきただけだった。

「わかったわよ。私わからないから、あなたが設定して。はい」

と、妻は来たばかりの猫ロボットをぼくのほうに放り投げた。すると、ぼくの腕の中に落ちてきた猫ロボットの目のLEDが光って、話を始めた。

「乱暴はやめてください。壊れます。まず、わたしの名前を言ってください」

ぼくは、この猫の子の名前を「オビア」にした。特に意味はない。ぱっと頭に思い浮かんだのだ。

「君の名前はオビア。メスの猫だ。生まれて1年して、この家に来た。まずはトイレを。。。ってトイレはしないよな。充電器はどこだい?」

すぐにオビアは答えた。

「こんにちは。はじめまして。オビアです。充電器は箱の底のほうに入っている黒い小さな箱の中です。いま、電池が半分くらいなので、お腹が減っています。あとで充電お願いします。いま、この近くのWi-Fiの設定を自動でやっています。Wi-Fi接続のパスワードも教えてください。」
「Wi-FiのパスワードはXXXX-XXXだ。うちの電話番号の後にアルファベットのXを重ねたやつだね。充電器だが、ごめんな。今設置する」
「お願いしますね」

ぼくは居間の片隅の床に近いコンセントに充電器を設定した。しばらくすると、オビアの目が青から赤に変わって点滅を始め、喋りだした。

「充電器の場所は自動でわかるので、私を床に置いてください。乱暴に扱わないでくださいね」

オビアをフローリングの床に置くと、周りを一巡したかと思うと、充電器の場所を特定したのだろう、そのまま、充電器までまっしぐらに走り出し、白いお皿のような無線充電器の上に自分の身を丸く横たえた。ちょっと目には、オビアはそこで寝ているように見えた。

子どもたちが目ざとくオビアを見つけて、走りよってきて、身体を撫でている。

「おい、いま来たばかりで充電中だ。名前はオビア。いたずらするなよ。1時間くらいで充電が終わるから、それから遊んでな」

ぼくはそう子供たちに言って、居間から自分の寝室に移動した。今日は日曜日で、仕事の疲れも出たらしい。なんだか眠くなって、そのままベッドで寝てしまった。


目を覚ましたのは、夕方になってからだ。ベッドルームから外を見ると、明日の天気予報を先取りするように、雪は降りはじめていた。降り出したばかりで積もってはいなかったが、時計を見ると午後5時。このままの勢いで降れば、明日は大雪だろう。月曜日の大雪は気が重い。自宅のすぐ裏ではあるが、仕事場までたどり着けるかどうか、心配になった。居間のほうから、子どもたちがオビアと遊んでいる声が聞こえる。

「オビア、たっちして」
「オビア、お父さん見てきて」

オビアは半開きの自分の部屋のドアを自分が入れるくらいまで開けて入ってきて、ベッドの上に立っている私を見た。私はオビアに言った。

「オビア、明日の天気は?」
「天気予報サイトによれば、朝から大雪みたいです」
「ありがとう」

オビアはそのまま子どもたちのいる居間に戻って喋っている。

「お父さんは起きてるよ」

そう聞こえた。


オビアは毎日、私たち家族の生活を覚えていった。平日の朝7時には家族全員が起床して、朝ごはんの支度。そして、7時半には家族全員がリビングで食事。オビアはその時間を把握すると、その30分前の6時30分くらいに毎日「大きな声で「にゃー」と鳴く。家族を起こすのだ。ときには、本物の猫のように、私のベッドルームに入ってきて、私の入っている寝具の上で鳴く。ぼくは目を覚まし、

「寒いからエアコンつけて。温度は23度」
「わかりました」

などというやりとりもある。まさに「猫の手」みたいだ。

朝8時には、全員が家を出る。まず私が、そして子どもたちを連れて妻が。それもオビアは覚えて、その時間になると

「あと10分で家を出なければなりません」

などと言ってくる。私たち家族は、慌てて朝食を終えて、身支度をする。

そんなオビアとの生活。オビアが来てほぼ1か月で、オビアは私たちの生活パターンを覚えたようだ。子供部屋はどこか?風呂場はどこか?妻の部屋はどこか?居間のどこになにがあるか?などなど、オビアはどんどん賢くなっていった。つまり「設定」は、最初の名前付けと、Wi-Fiの接続だけで良かった。後は、オビアのクラウド接続した先の人工知能が私たちの生活をどんどん覚えていく。

ある日、家に戻ると、オビアがいない。いつもなら、私が帰宅すると、オビアは私の所に寄ってきて「おかえりなさい、お父さん」と言うのだが。子どもたちに聞くと、オビアはさっき外に出ていった、という。

「おかしいな。。。壊れたかな。。。」

そう言うがはやいか、家の裏で大きな爆発音が響き、その響いたほうの窓ガラスが割れて飛び散って、家の中にガラスの破片が散乱した。


「作戦は成功したか?」
「はい。いま、爆破させました」
「よろしい。次の目標は?」
「既にロボット購入をして、1週間です。そろそろ、いろいろ覚えるところですが、あと3週間は欲しいところです」
「わかった。あせるな。計画通りにやれ。1つ1つ、ターゲットを狙って確実に落としていくんだ」
「わかりました」

C国軍のサイバー部隊は、一つ一つ、日本国内の「拠点」の攻撃をはじめていたのだ。

後で、わかったことはこうだ。

オビアを買った佐藤の家は東京の郊外の小都市にある。その裏が父親の職場「水川電業」だ。そこは日本でも知る人ぞ知る通信機関係の最先端機器を作る小さな会社だ。日本の大手電話会社などの使う通信機器は全てそこで作っている。最新の携帯電話網用のインフラ関係の機器から、携帯端末の試作まで、その技術力を買われて、軍事用の通信機器などの開発製造も行っていた。この会社がなければ、日本の高度な通信機器のほとんどは動いていなかっただろう、と言われている、知る人ぞ知る会社だ。爆発はその会社で起きた。これで、しばらくは、日本の軍事用高度情報通信機器の開発は遅れることは必至だ。佐藤自身は、会社を出た後で、自宅に戻ったところだったから、彼と彼の家族への被害は少なかった。しかし、佐藤は爆発後に、家族ともども、その場所から姿を消していた。聞くところによれば、会社の拠点をC国に移したらしく、家族ともども引っ越しを行い、後にC国の国籍も取得した、とのことだ。

佐藤の家に来たロボット、オビアは、佐藤の家族のいない時間に家の外を徘徊し、佐藤が代表をつとめる「水川電業」の位置を特定し、C国軍がオビアに予め入れてあるバックドアからある日オビアに侵入、オビアのコントロールを奪い、家の位置の特定のために、そこにいた。実はオビアの元になるロボットはC国で作られており、そのソフトウエアには、最初からバックドアが仕掛けられていたのだ。そして、その会社の位置を特定したオビアめがけて、爆発物を抱えたドローンが東京郊外の小都市近くの大学のグラウンドから発進。大学には多くのC国の留学生がおり、その留学生の一人がドローンを発進させたらしい、ということまではわかった。そして、そのドローンは、オビアのいる「水川電業」の社屋めがけて、爆撃を行ったのだった。

こうして、日本にある高度な技術を持った会社が一つ一つ、日本から姿を消した。

 


サイバー戦争の本、2冊め

サイバー戦争を「ショート・ショート」のフィクションでわかりやすく解説した「サイバー戦争が始まるとあなたの生活はこう変わる」の二冊目を上梓しました。今回は「仮想通貨」「自動運転車」「掃除ロボット」などがサイバー戦争でどう使われるか?などについても、具体的に「このようになるだろう」という物語で、わかりやすく解説しました。

こちらです。


サイバー戦争が始まる。あなたの生活はこうなる。

Kishimojin/Ikebukuro,Tokyo

●本BLOGでのサイバー戦争に関するフィクションの記事を本にまとめました。



サイバー戦争が始まった(3) サイバー戦争、終戦。「日本のいちばん短い日」

新宿の都庁展望台より

※本記事はフィクションであり、事実ではありません。

【会社到着】
歩いて4時間。千葉の自宅から東京にやっと入ったのが1時間前。そして、時ならぬ東京観光のように、スカイツリーを横目で見て、大手町の会社に到着したのは朝6時に家を出て、午前10時だった。帰りは電車が動いていることを祈るしかない。もし電車が動いていなければ、今日は帰るのをあきらめ、明日、電車が動いてから帰ろう。もともと、妻にはそう伝えておいたから、心配はしないだろうが、家のことはやはりいちばんに気になる。

会社のあるビルに到着すると、いつも出迎えてくれていたビルの自動ドアが開いたままになっている。電力会社からの電力供給がないのでビルや地域の自家発電装置を使わざるを得ず、当然だが、節電が行われている。当然、10階にある我が社までは階段で上がるしかない。エレベーターが動いていないからだ。さすがに4時間歩き通しで疲れてはいたが、最後のがんばりだと思って、階段を駆け上がった。

会社に到着した頃には、みな同じことを考えていたらしく、同僚がたくさん会社に集まっていた。社長は来ていない。聞けば社長は大阪に出張中とのことで、新幹線も飛行機も動かないので、東京に戻れないらしい。しかも電話も不通だから、連絡もつかないとのこと。社長の家族もさぞ心配してることだろう。職場はとりあえず地域で使っている自家発電装置で動くようになっていた。テレビをつけても雑音だけだ。電波が出ていないらしい。破壊された、というよりは、明らかに全体の節電のためだろう。仕方がないので、職場に置いてある携帯ラジオをつけた。なんと、ラジオからは声が聞こえている。放送はラジオが一番仕組みが簡単で、送信する側も、受ける側も、使う電力量も一番少ない。しかし、音は聞こえるがいつものような力強さはない。デジタル波ではなく、もとのアナログ波に戻っているようだ。電波が弱く、とぎれとぎれになるところもある。おそらく、東京以外の臨時の放送施設を使い、電力も制限しているのだろう。とにかく「非常時」であることはわかる。インターネットはまだ使えない。電話もだめだ。

【ラジオでサイバー戦争が始まったことを知る】
ラジオに聞き入っていると、日本が大規模なサイバー攻撃を受けたため、電力、水道、ガスなどはプラントのコンピュータが攻撃を受け、動作不能で止まっていること、復旧は早くても今日の夜から明日朝にかけて、とのことだ。昨日も同じことを言っていたのだから、まぁ、話半分で聞くしかない。気がつくと同僚たちが私の机の周りに集まっている。仕事をしようにもコンピュータもインターネットも使えないし、することがないのだ。私のラジオの音を聞く他に、今はすることがない。

オフィスの照明はもちろん切れているので、明かりは窓から取るしかない。普段の眩しいオフィスの様子は、まるで休日のオフィスのようになった。幸いなのは、夏の暑さではなく、冬の寒さの中だから、オフィスの中にいると気密がしっかりしていると、少しあたたかい、ということだ。それでも、暖房はもちろん使えないので、私も含め、通勤時に使っていたダウンのコートなんかを着ている。明かりはない。自分の席は窓際だから、オフィスでも明るいところになる。そこでラジオが鳴っているのだから、同僚は当然私の席の周りに集まるしかない。自分の席での仕事もできないのだ。こうして時間を過ごす他はない。立っていると疲れるから、みな自分の席から椅子を持ってきて座っている。ラジオは相変わらず、「まだ復旧しません」を繰り返している。なにが?インフラ全部が、だ。まとめればそういうことしか言っていない。

【敗戦への足音】
ふと窓の外を見ると、大きなヘリコプターがこちらに向かって近づいてくる。不意に、轟音を立ててビルの上を通り過ぎ、どこかに飛び去っていった。同僚の一人が「ありゃぁ、政府専用のヘリだ。なにかあるんじゃないか?あっちは羽田空港だよ」とつぶやいた。いや、「なにかある」じゃなくて、いまそれは目の前で進行中だ。しばらくしたら、ラジオでは、首相を載せた政府専用機が羽田空港から和平会談のために、近隣のC国に向かっている、という放送があった。ラジオはさっきからニュースのたびに同じ言葉を最後に付け加えている。「国民の皆様にありましては、冷静に行動してください」。さらに、ニュースは続けて、官房長官はもう一機の政府専用機で米国に向かっている、ということを伝えた。そろそろこの騒ぎも収束を始めている感じがするニュースだ。

【敗戦】
それから5時間ほどもしただろうか。赤く沈んでいく夕日が冬の澄み切った空の向こうに沈もうとしている頃、ラジオがまた臨時ニュースを伝えた。「日本国政府は、C国に対して、戦争をする意思は現在も将来もないことを伝え、その証拠として、日本の南端にある島、X島をC国に譲渡することを伝えたとのことです。首相自らが出向き、それを伝えました。また、官房長官は米国政府へX島のC国への譲渡の合意を得る話し合いを行い、承諾を得ました」。サイバー戦争はわずか3日で終わった。日本は負けた。

【復旧】
その日の夜10時。電気は復旧し、水道も出た。インターネットも電話もつながった。明日からはもと通りの仕事が始まる。つながった電話で妻に電話した。今日は会社に泊まること、明日、昼頃に会社を出て、復旧した電車で家に向かうことを伝えた。明日は金曜日だ。いつもと変わらない、良い週末が送れるのじゃないかと思った。

会社の窓の外に目を向ければ、夕陽を背にとなりのビルの屋上のテレビアンテナの上に大きなカラスがシルエットになってとまっていた。

「おい、今夜は一杯やるか!」

誰かが背後でそう叫んだ。まだ居酒屋も開いているかどうかわからないのに、よく言うよ、と思ったので「先に行って、店が開いていたら呼んでくれ」と答え、早朝に家を出るとき以来止めていたスマートフォンの電源スイッチを入れた。

※サイバー戦争終戦後の日本はどうなるか?

サイバー戦争が始まった(目次)へ

 


現代の戦争はサイバー戦争になる

かつて空母だ軍艦だ飛行機だという「兵器」は、なぜあんな高価なものを使ったかというと、その頃の戦争は国の政府どうしが「広大な土地の取り合い」をしていたから、その土地から莫大なお金を生むことができたからなんだね。つまり、カネをかける価値があった。

しかし、現代の戦争で土地の争奪をしたとしても、戦争で破壊された土地を復興させて「食える」ようにするためには、莫大なお金がかかることがわかってきた。極端な話、日本が全部どこかの国に戦争で占領されたとしたら、福島の復興はその占領した国の支出でやらなければならなくなる。原発の廃炉費用も、だ。

戦争に勝ったとしても、そういうことにならざるを得ない。

戦争にお金がかけられるのは、その戦争でかけた以上のお金が勝った国の手に入るからだ。しかし、現代という時代はこういう戦争はできない。であれば、現代の戦争はお金をかけずにやるしかない。また復興もできるだけ少ないお金でやらざるを得ない。だから現代の戦争は「サイバー戦争」にならざるを得ない。サイバーセキュリティで国の守りをしっかりとしなければならないし、サイバー攻撃ができるエンジニアや指揮官も揃える必要がある。

現代の戦争のフィールドは既にサイバー空間に移動したのだ。サイバー空間を制することができるかどうか?それが戦争の勝敗を決める。

 


サイバー戦争の基本とセキュリティの話

img_6265サイバー戦争の時代であるという。効果としては、たしかにICTを使った攻撃は、非常に効果が高い。まずはサイバー戦争になる以前の「普通の戦争」について考えてみよう。これまでの「普通の戦争」はいかにして起きたか。かんたんに言えば、それは「感情」で起きるものではなく、今でいう「国」という「企業単位」の規則なき競争がその発端であった。戦争で感情を煽るのは、個人的な死を予感しながら、それでも戦場に行かなければならない、という人間にとって、それが必要なものだからである。「戦争はなぜ起きるか」。この答えは「経済」であって、それ以外ではない。

第二次世界大戦以前の戦争は、そのすべてがかんたんに言えば「植民地争奪」のための戦争だった。植民地を得られれば、「国」という、現代で言えば「企業単位」のようなものの持つ「冨」を増やすことができると信じられていた。ということは、戦争にかかる費用や植民地経営にかかる費用が植民地が生み出す冨を上回るものであった場合は、戦争そのものが無意味になる。無意味になるばかりでなく「国」という経済単位の破綻を招く。しかし、いわゆる「戦前」は「植民地の生み出す冨」がその「奪取の戦争にかかる費用」よりも、必ず上回っていたし、上回るものだと信じられてきた。

ちょっと考えて見ればわかるが、植民地の財を増やさないと植民地を持つ本国の財も増えるわけがないから「植民地経営」をしなければならない。従って、植民地を得たあとにしなければならないのは「植民地への投資」であり、その投資があって、初めてリターンが得られる。軍隊というものが「金食い虫」であったのは、そのコストに勝る「リターン」が期待できたからでもある。そういう意味で、戦争とは基本的に「経済原理」によるもの以外ではない。

しかし、現代においては、「戦争」は「戦争をしない戦争」であった「冷戦(実際の全面戦争はしないで睨み合うだけ)」の時期を経て、現代は「ドンパチをしない戦争」に行き着いてきた。つまり、「戦争をせずに戦争をする」という時代に変わってきたのだ。これは、戦争による破壊で植民地を得たとしても、その経営にも多大な投資が必要になるため、現代では従来のかたちの戦争が「割に合わないもの」となってきたからにほかならない。核兵器による破壊は放射能汚染を伴い、その土地は数十年は使えなくなるし、よりお金のかからないABC兵器でこれを奪取したとしても、その後の影響はどうなるか計測し難い。戦争によって、植民地ターゲットとなっている土地の人々を「資源」として必要な労働に従事させ、土地を活用して冨を得る必要がどうしてもある。植民地支配者に対するレジスタンスもあるだろうし、それらに関わるコストもまた計算しておかなければならない。しかも現代を見渡せばわかるように、現代の戦争は「テロリズム」という名前の「ゲリラ戦」が当たり前になってきた。市街地であろうが森の中であろうが、敵はどこに潜んでいるかわからないし、それが味方の仲間内にいてもおかしくない。それらを掃討するためのコストが計り知れなく上昇しており、はっきり言ってそのコストは計測し難い。

結果として、第二次大戦ごろまで行われていた「古典的な戦争」は、勇壮に見えたとしても、コスト的にあわないものとなっているのが現代という時代なのである。

しかも、食料から製造する兵器、前線だけではなく大量に使われる電子機器などは、そのICチップから筐体、ソフトウエアに至るまで、現代では「多国籍」であることが当たり前であり、しかも複雑で不可視なものが多いうえ、「味方の地域」だけで作られているものとも限らない。グローバルなサプライチェーンが網の目のようにあって、その中ですべての国の政府なども暮らしているのだ。その国だけのものというものは今やどこにもない。国や地域どうしの「戦争」というものが無意味な時代になっている。

現代の「戦闘」は国や地域の境目を境界線として行われるものではなく「企業」という単位どうしでの戦闘にならざるを得ない。なぜならば、現代という時代は冨を持つ単位が「国」ではなく「多国籍企業」に移ったからだ。むしろ「国の政府」は多国籍企業の下請けである、と言って良い場合も多くなった。そこで、企業どうしの「戦争」は軍隊に頼らず、よりコストが低く、かつ相手に与えるダメージの大きい、それでいて、相手を打ち負かしたら、相手の人間を含めた資源をしっかりと収奪できるものとしてあらねばならなくなる。結果として、「サイバー空間の奪取」が大きな意味を持つようになったのだ。

そこで重要になるのが「サイバー空間の制空権」を防衛したり、敵のサイバー空間を破壊したり奪取できるようにするためのICTシステムなのだ。具体的には、それはセキュリティ機能に特化したアプライアンスサーバーであったり、それを自在に繰れる技術者であったり、ICTソフトウエア攻撃兵器の研究であったりする。前者も後者も、それがこれからの戦争の要となることはいうまでもない。

戦争というものの原点に立ち返り、それがなぜ起きるようになったかを考えれば、この流れは必然のものである。サイバー空間の防衛ができないものは現代では軍隊とは言わないのだ。