サイバー戦争が始まった(19) UTMにバックドア

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

「今日の所内からのネットはなんか重いなぁ」
「毎月、月始めには重くなるんですよ」
「なぜですかね?」
「さぁ?」

そんな会話を、この国のこの役所の中で、何回交わしただろう。

そんなある日、この所内の人間でないと知らないような情報がT国の掲示板に掲載され、所内は大騒ぎとなった。
日本の防衛にも関連する、重大な情報だったが、なぜか英文で、誰とも知らない人間がこの所内の情報を知っているのは明らかだった。早速、「情報漏えいの犯人探し」が始まったが、どうも人間は「スパイ」ではなかったらしい、ということはわかった。そこで疑われたのが、ITの機器だった。

「みんなのPCには、ちゃんとウィルス対策ソフト、スパイウエア対策ソフトは入ってるよな?」
「入っています。間違いありません」
「であるとすると、所内のネットワークを一望できるところにあるのは、あのUTM(Unified Threat Management)しかないんじゃないか?」
「まさか」
「外部の機関に調べさせよう」

所長の決断は速かった。

UTMとは、「セキュリティソフトを満載したルーター」のことだ。多くはインターネットと組織の間につながり、組織内のあらゆる情報のやりとりが外にもれないように守ると同時に、組織外からくる「攻撃」にも対処する、という「多機能」なものだ。そのUTMを、民間の、小さいが技術力が高い信頼できるセキュリティ会社に調べさせたところ、やはり問題があることがわかった。UTMは機能が多く複雑なぶん、小さなスパイのソフトウエアが入っていても、気が付かないことが多い、という欠点もある。

詳細な調査の結果、UTMの中のプログラムには巧妙なスパイのソフトが隠れており、所内のあらゆるやり取りが記録され、その内容のうち、めぼしいキーワードを含んだメールの文章などが、インターネットを通してT国のある機関の持つIPアドレスに送信されていたことがわかった。早速、所内のシステム担当者から、霞が関全体の統括情報官に報告が行った。翌週、所内のみならず、この官庁街で使われている全部のUTMの取り換えが行われた。新しいUTMは、内部のソフトウエアは全て国産で、防衛省でチェックを受けたものばかりだ。

「丸裸だったわけか。。。。」

所内のシステム担当者は絶句した。
同じシステム部のセキュリティ担当が言った。

「だから、言ったじゃないですか。たとえ我々、西側陣営の国のUTM製品でも、T国のものは危ない、と。私は個人的に全てSnifferで調べて、おかしなデータのやり取りを記録していて、ご報告は既に1年前にしていたんですが。。。。」

所長が続けた。

「まさか、セキュリティ機器に大きなセキュリティ欠陥や悪意のあるスパイウエアを入れられたんじゃ、どうしようもない。。。。」

そこにいた全員が沈黙した。数秒くらいだっただろうか。

所長が言った。

「次は全員の持つスマートフォンとタブレットだ。家族のぶんも集めてチェックするように」

 


サイバー戦争が始まった(18) Jアラート情報戦争

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

それまで、何度か日本の近くのK国から発せられたミサイルが日本の近海に落ちた、というニュースは数年前からあった。そして、近年はそのミサイルが日本の上空を飛び越す、ということが多くなり、もしも途中で落ちたら、ということで、「Jアラート(全国瞬時警報システム)」が鳴ったことが2度ほどあった。そして、そんなJアラートが朝一番で鳴るのが日常化した頃、また、新たなJアラートが鳴った。多くの人はそのスマートフォンから出る音を聞いて「またか」と思った。そして、東京に在住するJアラートを受けた人たちは、今度はその文面を見て青くなった。その文面にはこうあったからだ。

「K国のミサイルが4分10秒前にK国領土から発進されました。直後の弾道から、目標は日本本土の関東地方のどこかになる可能性があります」

人々は固唾を呑んで、スマートフォンを片手に「その時」を待った。

ミサイルは発射から約10分後に、茨城県の霞ヶ浦に落ちた。爆発はない、犠牲者もいない、という緊急速報がニュースで流れた。東京の近く。霞ヶ浦。それだけで東京に職場を持っていたり、東京に住んでいる人たちがざわついたことは言うまでもない。

直ちに、日本国内閣総理大臣は総理大臣名でK国への「最高に強い抗議」を表明した。K国からは「今回は、当然の抗議であり、威嚇のために打った、核弾頭も積んでいない、生物兵器も搭載していない」ことが発表されたが、防衛省からは爆発物処理をする部隊が霞ヶ浦に向かい、同時に、生物兵器対策部隊も霞ヶ浦に向かった。霞ヶ浦とその周辺はカーキ色の制服の自衛隊と、黒いスーツの部隊、そして、野次馬を整理するために全国からかき集められた警察官であふれた。霞ヶ浦で戒厳令が発せられる前に、スマートフォンのカメラに、霞ヶ浦に突き刺さったK国のミサイルの姿を収めておこう、という「インスタグラマー」「ユーチューバー」が既に殺到していた。当然だが各マスコミも殺到した。

数日すると、官房長官からの調査結果の説明があった。

「国民の皆様。今回のK国からのミサイルの霞ヶ浦の着弾は、東京都民の皆様も含めて、多くの人に恐怖を与えたことで、まずは総理大臣がK国に抗議をいたしましたことは、各マスコミの報道でご存知かと思われます。今回、ミサイルが着弾した霞ヶ浦周辺には着弾直後に戒厳令を敷き、防衛省から小規模でも核兵器などの兵器があるかどうか、生物兵器の搭載がなかったかどうか?などを鋭意調査しましたところ、そのような兵器は一切搭載されていなかった、ということが確認されました。なお、引き続き、日本国政府はK国政府に連日の抗議声明を送り、二度とこのようなことがないよう、強く、強く、要請しております」

最後に、官房長官は記者の質問に冗談で答えた。

「全く、「霞ヶ関」って最初聞いたときは驚きましたよ。すぐに「霞ヶ関」ではなくて「霞ヶ浦」って訂正されましてね。ほっとしました。

この冗談に対し「ほっとした、とはなにごとか。霞ヶ浦とその周辺に住む人たちをなんだと思っているのか?!」という声が自民党の地元の議員からも上がり、官房長官は翌日の記者会見で、この発言を謝罪し、取り消した。

この「K国ミサイル着弾事件」のあと、防衛省からは米国からのさらなる迎撃ミサイルの購入と、迎撃体制確立のため、不足している自衛隊人員の強化のために、高校を卒業をして大学に行く予定のない学生に限り、「試験入隊制度」を整えることになり、予算がついた。さらに、兵器等は自国での調達が確実、ということで、自国内の兵器製造業への「超ハイテク新型迎撃ミサイル開発・発注」の議論が盛り上がった。

 


サイバー戦争が始まった(17) ルーターのバックドア

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

「おかしいな」

ある大手電機メーカーの営業の佐藤がそれに気がついたのは、あるネットのニュース速報を見たときだ。同僚の鈴木がそうつぶやく臨席の佐藤に聞いた。

「なにがあったんだ?」

佐藤が答え、会話が始まる。

「おかしい。一昨日まで決まっていた防衛省との商談が一転して破談になったんだ」
「けっこうよくあることだとは思うんだが。。。」
「いや、あまり詳しいことは言えないが、どうも今回は価格決定のときの商談の内容が漏れているみたいなんだ。今朝のネットニュースで競合のX社がC国製の施設でそのシステムを応札した、と出ていた」
「あのオプションをつけたのか?」
「そうだ。だが、今回ぼくが話をしていたその当社独特のオプションの話が、どうやらこのニュースでは競合のX社にもついているらしい」
「単なる偶然じゃないのか?」
「いや、これが二回目なんだよ。前は例の国会でもんだいになったあの商談のときだ」
「どこかに、我々と防衛省の相談の話が漏れている?横で聞いてたやつはいるのか?」
「いや、上司にその都度、うちのチャットメッセージングシステムで報告を入れていたけど、この話は家族にもしていない。そのあたりはとても気をつけている」

鈴木はその会話が終わったあと、佐藤に、自社のシステム部のセキュリティ担当技術者に、持っているIT機器のすべてを精査するようにしたらどうか?とアドバイスし、すぐに佐藤はそのとおりにしたうえ、数日の休暇に入った。

数日後、休暇からもどってきた佐藤には、衝撃の事実が待っていた。鈴木が佐藤に話をした。

「おい、佐藤、うちのシステムに君のIT機器を調べてもらった結果が出た。これは全社的に大変なことになる」
「なにが見つかったんだ?」
「このレポートを見ろよ。この赤字のところなんか特に。。。」

そう、鈴木が言い終わるか終わらないうちに、佐藤は鈴木の手の中にあったレポートをひったくるようにして奪い、食い入るように眺めた。そして、顔が見る見る青くなっていった。

「これか。まさか外出用のWi-Fiルーターとは。」

佐藤は一言、つぶやいた。そして続けた。

「今日、新しい機器を買ってくる。上司には経費で落としてもらうよう、お願いしておいた。そして、買った直後にすぐにはその機器を使わず、うちのシステム担当に精査してもらって、それから使うようにする」
「それがいい。それでも背後からだれが見ているかわからない。使うときは気をつけろよ」
「それは今までも気をつけているさ」

会話は終わった。

レポートによれば、佐藤が外出の時に使っている、PCにつなげているWi-Fiルーターにバックドアが仕掛けてあり、そのバックドアから何度か外部の誰かが侵入した痕跡がある、とのことだ。そして、そのWi-Fiルーターの中のシステムには、ネットワークを流れるデータを横取りする、「Sniffer」のソフトウエアがインストールされ、ある特定のIPアドレスに、Wi-Fiルーターを流れるデータがすべて送られていた。どうやらここで、リアルタイムに佐藤の防衛省との商談の内容が漏れていたらしい。

Wi-Fiルーターでは、PCやスマートフォン、タブレットに入れたウィルス対策ソフトやスパイウエアの対策ソフトは意味がない。してやられた、という感じだが、巨大キャリアであるモバイル通信会社の売っているルーターにそんなバックドアが仕掛けられたまま、販売されていたとは。

その後、佐藤のいる会社の社員が使う、スマートフォンやWi-Fiルーターのすべてが、会社用、個人用を問わず、システム部に集められ、バックドアの精査が行われた。そこでも数件の侵入痕跡が発見され、そのうち1台には、なんと佐藤のようにデータのすべてを世界のどこかにあるところに、リアルタイムで転送していた。

その後、社内通達で、家族が使うモバイル機器なども、来週、精査が行われるので、会社に持ってくるよう命令がくだされた。全部を精査するのだ。また、新たなモバイル機器購入にあたっては、必ずシステム部にそれを持ち込んで、問題のないことを確認したうえ、使用することが社長命令で全社員に厳命された。

「君だけじゃなかったな。みんなやられていた、というわけさ」

佐藤の顔も鈴木の顔も、これまでにないくらい、曇っていた。

 


サイバー戦争が始まった(16) クラウド攻撃

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

インターネットなどのオープンなネットワークを使うのが当たり前になった今日では、攻撃の相手の武器や背後の兵站などに使われているコンピュータやネットワークに大きな支障を与え、軍の機能を麻痺させる「サイバー攻撃」が非常に有効になる。サイバー戦争について、ほとんど知識のない「IT音痴」では、今日の戦争を戦えない、と言っても良いだろう。サイバー戦争はどうあがいても現代の戦争の要にならざるを得ない。

「ところで、どこを狙うんだ?」

C国のサイバー戦担当官のBに、時期攻撃担当のA将校が話を降った。Bは答えた。

「宣戦布告をすると、相手にこちらの手を読まれるので、あくまでテロ戦、ゲリラ戦でいきます」
「なるほど。で、どこを狙うのか?だが。。。」

質問が終わらないうちに、B担当官が答えた。

「2013年の日本の総務省発表の資料では、日本国内には、インターネット接続の要となる電話局が、NTT東日本だけで約1400あります。このうち、日本国内の主要クラウド事業者につながっている電話局は約200。この200の電話局を狙います」
「なるほど、その接続されているクラウドデータセンターを狙うわけか」
「いえ、違います」

B担当官は言下に否定した。そして続けた。

「電話局とか、クラウドデータセンターは厳重な警備がされていることが普通で、ここをテロなどで破壊するのは至難の技です。そこで。。。。」
「そこで、どうするんだ?」
「電話局とデータセンターを結ぶ、地中などに埋められた基幹の大容量回線、またはデータセンターに電源を供給している電力線を狙います」
「どうやって狙うんだ?」
「既にNTT地域各社とその工事業者に我が国のスパイが入っていますので、そこから、地中のケーブルの埋設位置を特定できます。そのうち、一番手薄なところを狙って、電気工事業者などを装い、土木機械で穴を掘って大容量光ケーブルを切断します。偽装工事テロですね。時間は5分もあれば十分でしょう。既に電気工事・通信工事業者にはかなり以前から外国人を多く使う現場が多く、こちらのスパイもかなり多くいて、いつでも連絡がつく体制です。実行は号令一下で簡単にできます」「これで、日本の自衛隊が使っている回線や日本の友軍の米軍なども一切インターネットが使えない空白があちこちにでき、全体の機能麻痺が起きる。表計算やワープロなどのソフトウエアや、肝心のオペレーティングシステムも今はほとんどクラウドで管理されて動いており、データセンターとの接続なくしてはパソコンやスマートフォンも起動もできません。おそらく、日本中が大混乱になるでしょう」

まさに、立板に水。するするとB担当官の口から、日本の攻撃計画が語られた。

そして、話題は「戦後」に移った。A将校が聞いた。

「そうして我が国の軍が日本全土を制圧する。日本政府は我々の監視下に置かれる。その後の復旧はどうする?」

B担当官が答える。

「これまでの戦争ではお金がかかりすぎました。しかし、今回のサイバー戦そのものはお金がかからない。勝利した後は、その回線を復旧させるだけで、社会システムはすべて復活する。攻撃にかかる費用は、どんなに多く見積もっても、従来の核攻撃の数百分の1。そして、復興もそのくらいのお金で、ほとんど1日でできるでしょう。どこを直せば復旧するか、は、攻撃した私達が一番知っているわけですから」

A将校はうなった。そして断を下した。

「それで行こう。実行はX月X日の、日本の現地時間で午前4時だ。朝、日本国民が起きる頃には勝敗は決まっているだろう」

満場の拍手で、作戦会議は終わった。

 


サイバー戦争が始まった(15) EMP攻撃

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

その日のお昼ごろ。事務所では早めの昼ごはんに行く社員がちらほらいる。11:30を過ぎると、けっこうな社員が昼休みを取るために外に出る。私も外に出たのだが、ちょうどそのとき、晴れ渡った空でなにか音がしたような気がした。それを見た人は「閃光が走った」と言うのだが、自分は見ていない。そして、行きつけのレストランで注文を済ませて、料理が出て来るあいだ、スマホを触り始めた。

が、そのときのスマホはいつもと違った。画面が真っ暗で、なにもできない。周囲を見渡してみると、他の人たちも同じようになっている。人によっては、動かなくなったスマホの画面を指で散々叩いている。誰かが大声で「なんなんだ!」と叫んだが、なにが起きたのか全くわからない。

私は「まてよ」と思いをめぐらし、レストランのウェイターの人に、言った。

「ごめんなさい、実は急用ができて、すぐに会社にもどらなければならないので、オーダーはキャンセルしてください」

私は会社に戻ると、電源を入れたまま出てきたPCの前に座った。そして、リターンキーを押し、マウスを動かした。が、だめだ。画面が真っ暗になって、なにもできない。すぐに隣の同僚のPCでも同じことをしてみたが、同じだった。

30分ほどして、社員が会社にぞろぞろと戻ってきた。聞けば、レストランが途中で閉店したのだという。注文をさばくコンピュータが壊れて、なにも注文を受け付けなくなったから、ということだった。私は「もしや」と思って、外を見た。目の前のJR山手線の線路の上で、電車が途方に暮れたように止まっている。見れば、道路でも自動車が止まって動かない。信号機も動いていない。

まさに、東京都心は「死の街」になった。全てが止まった。そこで、私は近くにいる社員を集めて、話をすることにした。

「おそらく、この地域はEMP(Electromagnetic Pulse)攻撃を受けた。そのため、あらゆる電子機器が動かなくなったんだ。今日は徒歩でしか家にみんな帰れないと思う。しかし、帰ったところで、テレビもラジオもつかないし、電気も来ていないだろう。とりあえず、収まるまで、ここにいたほうがいい」

「あと、しばらくは電話も使えない。怪我をするようなことはするな。無線がだめだから、救急車も来てくれないし、火事があっても放置するしかないだろう。」

そして、夕方には、いろいろなものが復旧を始めたのだが、業務用のデータがはいったサーバーは完全におかしくなって、メーカーのメンテナンスを受けることになったのだが、バックアップしてあったデータも消えていた。これではなにもできない。個人持ちのスマホも真っ暗な画面のままだ。途方に暮れたが、途方に暮れる以外にできることもなかった。

東京は、死んだ。


EMP攻撃とは、成層圏で核爆発を起こし、そこで発生する強力な電磁波が地上に降り注ぎ、広域ですべての電子機器が使用できなくなる、そういう「攻撃」のことだ。今やデータ通信などは当たり前の世の中になっているし、仕事ではPCも使うし、個人でスマホも使う。その全てが狂えば、全てが動かなくなる。電気もガスも水道も、今やコンピュータ制御である以上、EMP攻撃で動かなくなるだろう。

諦めたその気持ちが、諦めたまま落ち着こうとしたそのとき、上空をジェット戦闘機が轟音を立てて通過した。誰かが言った。

「おい、自衛隊は大丈夫なのか?」

実は自衛隊は大丈夫だった。というのは、前年、自衛隊はEMP攻撃に耐えられるコンピュータを全面的に導入して、ネットワークもEMP攻撃を受けることを前提に構成されていたからだ。しかしながら、庶民の生活はそれから数日、全く動かなかった。

 


サイバー戦争が始まった(14) ルーティング・テーブル

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

2017年8月25日、その日の昼過ぎ、Google社のエンジニアがルーティングの操作を誤り、世界中のインターネットを止めた。同社は調査後に世界中に向けて謝罪を行なった(謝罪ではなく、単なるプレスリリースであったようだ)。ほんのいちエンジニアの操作ミスであった、という。インターネットとはいっても、その程度のもの、といえばその程度のものであもあるのは、仕組み上、仕方ないことだ。

「おい、できたか?」
「もう少し。今日の午後にはできる」
「攻撃は明後日だ。ぶっつけ本番になるが、なんとかなりそうだな」
「そのつもりだ」

インターネットの根幹を成すTCP/IPという通信プロトコルでは、常にネットワークのデータパケットの行き先を「ルーティング・テーブル」というデータの塊で管理する。このテーブルは実は簡単に書き換えが可能性だ。従って、全世界、あるいはある地域のインターネット接続はこのルーティングテーブルをめちゃくちゃに壊すことで破壊できる。しかもそう難しくはない技術で、誰でもができる。

今回の事故はGoogleのネットワーク管理者のほんの些細なオペレーティングミスで起きた。当然のことながら、この仕組みを使って、世界中のインターネットを一瞬にして停止する、ということもできる。であればこれをサイバー兵器として使わない手はない、と、誰もが考えるだろう。

その数日後、作戦は決行された。

オープンシステムを標榜していた、標的になった国のンターネットをベースとする軍事システムはすべて止まった。当然のことながら、民間の通信システムや、電話なども不通になった。その隙をついて、某国からその国への空からの攻撃も始まった。攻撃された国は大混乱となり、翌日、降伏文書への調印が行われた。

「なんとかなったな」
「なりました。作戦終了ということで、ルーティングテーブルを元に戻します。おそらく、機器などの破壊は最小限に抑えられたと思います」
「よくやった。今日は飲みに行くか」
「そうしましょう。緊張しました。ごく一部を除いて、流血もなかったし。まぁ、よかったとしたいです」

その日、破壊されたその国のインターネットはすべて復旧。いつもと変わらない毎日が訪れた。その国の政府がまるまる、他の国の政府の管轄となった、という以外は。


2017/08/27

サイバー戦争が始まった(13) マインド・コントロール

※本記事はフィクションです。事実ではありません。

「なりたい自分になる」「生き方を変え、人生を変える」。そういうキャッチフレーズで出てきたスマートフォンアプリ「チェンジ・ユア・マインド」、略して「CYM」は、「快進撃」という言葉そのままに、日本の若者の間に受け入れられていった。そのアプリをインストールすると、画面には、「指示」が出てくる。いわく「今朝の仕事に行く支度は30分以内で済ませる」。その通りやって、自分でそれを達成すると、「Mission Completed」のボタンを押す。すると、点数がプレイヤーに付加され、その点数を獲得できる。「指示」は、回を追うごとに「厳しい」ものになっていき、それを達成したときの点数も上がる。出勤時間の短縮ができると、次は「階段を登るとき、全ての階段を1段置きに飛ばして登る」できたら、30点。出勤途中に階段の上りが2つ以上あると、+20点が付加。「スリムで健康な身体を作るために、今日の昼ごはんは肉を一切取らないベジタリアンにする」。+40点。会社から帰ってから、スクワットを20回。+30点。そして、合計点数が20日以内に1000点を超えると、「ブロンズ・ステージ」から「シルバー・ステージ」にあがる。そのとき、「ボーナス点数」がまた付加される。そうして、点数をためていく、そういうゲームなのだ。最高位は「ゴールド・ステージ」、そしてそれもクリアすると「プラチナ・ステージ」がさらにあるが、それを達成できたのは、現在のところ世界で3人だけだ。

ある日、ゴールド・ステージになったばかりの彼のところに「2日以内に龍の刺青を背中に描く」というミッション(命令)が来た。そして翌日、彼は仕事を休んで刺青師のところに行き、「Mission Completed.」のボタンを押した。すると、画面には「おめでとうございます。後2000点でプラチナ・ステージです。今回の点数は+200点でした」と表示される。彼は、満足した気持ちになった。

翌朝、次のミッションが来た。

「自衛隊に志願する。3日以内。+400点」

彼は、翌日、現在の仕事をやめる、と社長に言いにいき、辞表を出した。その足で、自衛隊に入る手続きをした。「Mission Completed.」のボタンを押す。また、「おめでとう。。。。」から始まるメッセージが表示された。彼はまるで自分の人生が寄り良い方向に導かれているような、そんな感じがしてきた。

そんな彼が自衛隊に入って数カ月したとき、次のミッションが来た。

「自分の上官の部屋に入って、上官の机の上にネコを置いて写真を撮る。+600点。」

おかしなミッションだなぁ、とは思ったが、犯罪というほどのものではないのは明らかだ。上官の部屋に入るにも、なにもこっそり入る必要はない。堂々となにか質問に行く、ということにするなど、いくつも方法はある。しかし、それにつけてもネコなんているのか?ということのほうが気になった。と、思ったら、自分の宿舎にいつも野良猫がたむろしている場所があるのを思い出した。宿舎の管理人が毎朝、その場所で野良猫に餌をやっているところだ。そうだ、そこから持ってくればいい。

翌朝、彼は野良猫の一匹をなんとか手懐けて自室に確保。すぐに上官に電話をかけたが不在だったので、勝手に入ることにした。そして、ネコを抱えて上官の部屋に入った。すぐにネコを机の上に置いて、背中を撫でると、ネコはすぐに静かになって、すやすやと寝始めた。腹いっぱい食べて、眠くなったのだろう。彼はすぐにネコを置いた机から離れて、机の上にいるネコの写真をスマートフォンで撮影し、それをCYMに入れ、「Mission Completed.」のボタンを押した。すると、自動的に画像認識したのだろう。いつもの「おめでとうございます」から始まる表示が出た。「やった!」彼は心の中でつぶやくと、机の上のネコはそのままに、上官の部屋から出て、廊下を一目散に自分の部屋に向かった。

と、そのとき、上官の部屋で「バン!」という鈍い音がした。爆発音?いや、そんなはずは。。。。と、振り返って、廊下の向こうの、さっきまでいた上官の部屋を見たら、廊下に部屋の扉がぶらぶらと開いて動いていた。硝煙も見える。本当に爆発があったのだ。彼は間一髪でその爆発の現場から逃れたことになる。


後で聞いたところによれば、爆弾はネット経由の遠隔操作の爆弾で、その通信は無線LANで上官の部屋の無線LAN装置からインターネット経由でつながっていて、起爆装置のスイッチが入るようになっていた。爆発したのは、太ったネコの体内に仕掛けられたプラスチック爆弾だという。もちろん、上官の机の上で、ネコは粉々になっていたというではないか。つまり、これは自衛隊内に仕掛けられた、爆弾テロだったのだ。そして、彼はアプリでやっているゲームを通して、爆弾テロの実行をコントロールされていたのだ。

後で聞いたところによれば、このアプリで自殺をするようなミッションもあり、実際に自殺者も出ていた、というではないか。彼は翌日、元いた会社の社長に事情を話してその会社に戻りたい、と懇願し、受け入れてくれた。そして自衛隊を除隊した。もちろん、彼はその日からCYMをアンインストールし、今後は使わないことに決めたことは言うまでもない。