サイバー戦争が始まった(3) サイバー戦争、終戦。「日本のいちばん短い日」

新宿の都庁展望台より

※本記事はフィクションであり、事実ではありません。

【会社到着】
歩いて4時間。千葉の自宅から東京にやっと入ったのが1時間前。そして、時ならぬ東京観光のように、スカイツリーを横目で見て、大手町の会社に到着したのは朝6時に家を出て、午前10時だった。帰りは電車が動いていることを祈るしかない。もし電車が動いていなければ、今日は帰るのをあきらめ、明日、電車が動いてから帰ろう。もともと、妻にはそう伝えておいたから、心配はしないだろうが、家のことはやはりいちばんに気になる。

会社のあるビルに到着すると、いつも出迎えてくれていたビルの自動ドアが開いたままになっている。電力会社からの電力供給がないのでビルや地域の自家発電装置を使わざるを得ず、当然だが、節電が行われている。当然、10階にある我が社までは階段で上がるしかない。エレベーターが動いていないからだ。さすがに4時間歩き通しで疲れてはいたが、最後のがんばりだと思って、階段を駆け上がった。

会社に到着した頃には、みな同じことを考えていたらしく、同僚がたくさん会社に集まっていた。社長は来ていない。聞けば社長は大阪に出張中とのことで、新幹線も飛行機も動かないので、東京に戻れないらしい。しかも電話も不通だから、連絡もつかないとのこと。社長の家族もさぞ心配してることだろう。職場はとりあえず地域で使っている自家発電装置で動くようになっていた。テレビをつけても雑音だけだ。電波が出ていないらしい。破壊された、というよりは、明らかに全体の節電のためだろう。仕方がないので、職場に置いてある携帯ラジオをつけた。なんと、ラジオからは声が聞こえている。放送はラジオが一番仕組みが簡単で、送信する側も、受ける側も、使う電力量も一番少ない。しかし、音は聞こえるがいつものような力強さはない。デジタル波ではなく、もとのアナログ波に戻っているようだ。電波が弱く、とぎれとぎれになるところもある。おそらく、東京以外の臨時の放送施設を使い、電力も制限しているのだろう。とにかく「非常時」であることはわかる。インターネットはまだ使えない。電話もだめだ。

【ラジオでサイバー戦争が始まったことを知る】
ラジオに聞き入っていると、日本が大規模なサイバー攻撃を受けたため、電力、水道、ガスなどはプラントのコンピュータが攻撃を受け、動作不能で止まっていること、復旧は早くても今日の夜から明日朝にかけて、とのことだ。昨日も同じことを言っていたのだから、まぁ、話半分で聞くしかない。気がつくと同僚たちが私の机の周りに集まっている。仕事をしようにもコンピュータもインターネットも使えないし、することがないのだ。私のラジオの音を聞く他に、今はすることがない。

オフィスの照明はもちろん切れているので、明かりは窓から取るしかない。普段の眩しいオフィスの様子は、まるで休日のオフィスのようになった。幸いなのは、夏の暑さではなく、冬の寒さの中だから、オフィスの中にいると気密がしっかりしていると、少しあたたかい、ということだ。それでも、暖房はもちろん使えないので、私も含め、通勤時に使っていたダウンのコートなんかを着ている。明かりはない。自分の席は窓際だから、オフィスでも明るいところになる。そこでラジオが鳴っているのだから、同僚は当然私の席の周りに集まるしかない。自分の席での仕事もできないのだ。こうして時間を過ごす他はない。立っていると疲れるから、みな自分の席から椅子を持ってきて座っている。ラジオは相変わらず、「まだ復旧しません」を繰り返している。なにが?インフラ全部が、だ。まとめればそういうことしか言っていない。

【敗戦への足音】
ふと窓の外を見ると、大きなヘリコプターがこちらに向かって近づいてくる。不意に、轟音を立ててビルの上を通り過ぎ、どこかに飛び去っていった。同僚の一人が「ありゃぁ、政府専用のヘリだ。なにかあるんじゃないか?あっちは羽田空港だよ」とつぶやいた。いや、「なにかある」じゃなくて、いまそれは目の前で進行中だ。しばらくしたら、ラジオでは、首相を載せた政府専用機が羽田空港から和平会談のために、近隣のC国に向かっている、という放送があった。ラジオはさっきからニュースのたびに同じ言葉を最後に付け加えている。「国民の皆様にありましては、冷静に行動してください」。さらに、ニュースは続けて、官房長官はもう一機の政府専用機で米国に向かっている、ということを伝えた。そろそろこの騒ぎも収束を始めている感じがするニュースだ。

【敗戦】
それから5時間ほどもしただろうか。赤く沈んでいく夕日が冬の澄み切った空の向こうに沈もうとしている頃、ラジオがまた臨時ニュースを伝えた。「日本国政府は、C国に対して、戦争をする意思は現在も将来もないことを伝え、その証拠として、日本の南端にある島、X島をC国に譲渡することを伝えたとのことです。首相自らが出向き、それを伝えました。また、官房長官は米国政府へX島のC国への譲渡の合意を得る話し合いを行い、承諾を得ました」。サイバー戦争はわずか3日で終わった。日本は負けた。

【復旧】
その日の夜10時。電気は復旧し、水道も出た。インターネットも電話もつながった。明日からはもと通りの仕事が始まる。つながった電話で妻に電話した。今日は会社に泊まること、明日、昼頃に会社を出て、復旧した電車で家に向かうことを伝えた。明日は金曜日だ。いつもと変わらない、良い週末が送れるのじゃないかと思った。

会社の窓の外に目を向ければ、夕陽を背にとなりのビルの屋上のテレビアンテナの上に大きなカラスがシルエットになってとまっていた。

「おい、今夜は一杯やるか!」

誰かが背後でそう叫んだ。まだ居酒屋も開いているかどうかわからないのに、よく言うよ、と思ったので「先に行って、店が開いていたら呼んでくれ」と答え、早朝に家を出るとき以来止めていたスマートフォンの電源スイッチを入れた。

※サイバー戦争終戦後の日本はどうなるか?

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