サイバー戦争が始まった(41) 家庭用ペットロボット

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。
※これらの書籍では、他にも「仮想通貨」「ドローン」「掃除ロボット」などがサイバー戦争でどう使われるかについて、書いています。

彼女が来たのは、明日の朝は東京が雪で覆われる、という天気予報がテレビの夕方のニュースで流れた日曜日の午後だった。

「ピンポーン!」

「おい、来たよ。通販業者だろう。ハンコは玄関横の箱においてある。受け取ってくれ」

ぼくは、妻にそういった。妻はしばらくすると、大きな箱を抱えて来て言った。

「あなた、なにまた買ったの?もう家はパソコンとかでいっぱいでしょ?このガラクタどうすんのよ」
「いやいや、今度のは、。。。。君にも役に立つ。開けてごらん」
「どうせまた。。。全く男の趣味ってのは。。。」

妻はブツブツ言いながら、通販業者のもってきた大きな箱を開けた。箱の中から出てきたのは、身長50センチくらいの猫のロボットだった。箱から出したとたんに、電池が入っているのだろう、すぐに動きだし、後ろ足で立った。

「あなた、数年前に犬のロボット買ったじゃない。あれ、どうしたの?」
「あれはもう壊れたんで処分した。保守部品もメーカーに無い、って言うから、メーカーに教えてもらったロボットを専門に供養する、って言う業者にもって行ってもらったんだ」
「これねぇ、単なる電子部品の塊でしょ?なにやってんのよ。おカネかかったんでしょ?」
「うん。5万円くらい。。。」

そこでぼくの声は小さくなったが、すかざす、妻は言った。

「高い。いつの話?」
「だから、一昨年の夏だよ。君が旅行で子供連れてハワイに行っていたとき。」
「5万円あったら、もっとお土産いっぱい買ってこれたのに。。。」

妻は少し悔しい顔をした。女は現実的である。男のロマンをわかっていない、などと思ったが、それを口に出す前に、妻は私の言葉を見透かすように言った。

「で、何の役に立つの?これ。ネズミ取るの?うちはネズミいないわよ」
「だからさ、ぼくも君も働いてるだろ?子供は学校だし。昼間は誰も家にいないけど、家の留守番してくれる」
「どんな留守番?」
「家の周辺を誰かが通って、この家の周りを徘徊するとか、家に誰か侵入するとかあると、ぼくや君のスマホに直ぐにしらせてくれて、警察にも電話してくれるとか、子供が帰ってきたのをしらせてくれるとか。。。。」
「それ、猫じゃなくて犬じゃない」
「いいんだ。ロボットだから、どっちでも」
「わかったわよ。で、どう使うの?」

妻は半ばあきれた顔でそう聞いた。待ってました、とばかり、あれができる、これもできる、と喋ったが、妻は一言、言い返してきただけだった。

「わかったわよ。私わからないから、あなたが設定して。はい」

と、妻は来たばかりの猫ロボットをぼくのほうに放り投げた。すると、ぼくの腕の中に落ちてきた猫ロボットの目のLEDが光って、話を始めた。

「乱暴はやめてください。壊れます。まず、わたしの名前を言ってください」

ぼくは、この猫の子の名前を「オビア」にした。特に意味はない。ぱっと頭に思い浮かんだのだ。

「君の名前はオビア。メスの猫だ。生まれて1年して、この家に来た。まずはトイレを。。。ってトイレはしないよな。充電器はどこだい?」

すぐにオビアは答えた。

「こんにちは。はじめまして。オビアです。充電器は箱の底のほうに入っている黒い小さな箱の中です。いま、電池が半分くらいなので、お腹が減っています。あとで充電お願いします。いま、この近くのWi-Fiの設定を自動でやっています。Wi-Fi接続のパスワードも教えてください。」
「Wi-FiのパスワードはXXXX-XXXだ。うちの電話番号の後にアルファベットのXを重ねたやつだね。充電器だが、ごめんな。今設置する」
「お願いしますね」

ぼくは居間の片隅の床に近いコンセントに充電器を設定した。しばらくすると、オビアの目が青から赤に変わって点滅を始め、喋りだした。

「充電器の場所は自動でわかるので、私を床に置いてください。乱暴に扱わないでくださいね」

オビアをフローリングの床に置くと、周りを一巡したかと思うと、充電器の場所を特定したのだろう、そのまま、充電器までまっしぐらに走り出し、白いお皿のような無線充電器の上に自分の身を丸く横たえた。ちょっと目には、オビアはそこで寝ているように見えた。

子どもたちが目ざとくオビアを見つけて、走りよってきて、身体を撫でている。

「おい、いま来たばかりで充電中だ。名前はオビア。いたずらするなよ。1時間くらいで充電が終わるから、それから遊んでな」

ぼくはそう子供たちに言って、居間から自分の寝室に移動した。今日は日曜日で、仕事の疲れも出たらしい。なんだか眠くなって、そのままベッドで寝てしまった。


目を覚ましたのは、夕方になってからだ。ベッドルームから外を見ると、明日の天気予報を先取りするように、雪は降りはじめていた。降り出したばかりで積もってはいなかったが、時計を見ると午後5時。このままの勢いで降れば、明日は大雪だろう。月曜日の大雪は気が重い。自宅のすぐ裏ではあるが、仕事場までたどり着けるかどうか、心配になった。居間のほうから、子どもたちがオビアと遊んでいる声が聞こえる。

「オビア、たっちして」
「オビア、お父さん見てきて」

オビアは半開きの自分の部屋のドアを自分が入れるくらいまで開けて入ってきて、ベッドの上に立っている私を見た。私はオビアに言った。

「オビア、明日の天気は?」
「天気予報サイトによれば、朝から大雪みたいです」
「ありがとう」

オビアはそのまま子どもたちのいる居間に戻って喋っている。

「お父さんは起きてるよ」

そう聞こえた。


オビアは毎日、私たち家族の生活を覚えていった。平日の朝7時には家族全員が起床して、朝ごはんの支度。そして、7時半には家族全員がリビングで食事。オビアはその時間を把握すると、その30分前の6時30分くらいに毎日「大きな声で「にゃー」と鳴く。家族を起こすのだ。ときには、本物の猫のように、私のベッドルームに入ってきて、私の入っている寝具の上で鳴く。ぼくは目を覚まし、

「寒いからエアコンつけて。温度は23度」
「わかりました」

などというやりとりもある。まさに「猫の手」みたいだ。

朝8時には、全員が家を出る。まず私が、そして子どもたちを連れて妻が。それもオビアは覚えて、その時間になると

「あと10分で家を出なければなりません」

などと言ってくる。私たち家族は、慌てて朝食を終えて、身支度をする。

そんなオビアとの生活。オビアが来てほぼ1か月で、オビアは私たちの生活パターンを覚えたようだ。子供部屋はどこか?風呂場はどこか?妻の部屋はどこか?居間のどこになにがあるか?などなど、オビアはどんどん賢くなっていった。つまり「設定」は、最初の名前付けと、Wi-Fiの接続だけで良かった。後は、オビアのクラウド接続した先の人工知能が私たちの生活をどんどん覚えていく。

ある日、家に戻ると、オビアがいない。いつもなら、私が帰宅すると、オビアは私の所に寄ってきて「おかえりなさい、お父さん」と言うのだが。子どもたちに聞くと、オビアはさっき外に出ていった、という。

「おかしいな。。。壊れたかな。。。」

そう言うがはやいか、家の裏で大きな爆発音が響き、その響いたほうの窓ガラスが割れて飛び散って、家の中にガラスの破片が散乱した。


「作戦は成功したか?」
「はい。いま、爆破させました」
「よろしい。次の目標は?」
「既にロボット購入をして、1週間です。そろそろ、いろいろ覚えるところですが、あと3週間は欲しいところです」
「わかった。あせるな。計画通りにやれ。1つ1つ、ターゲットを狙って確実に落としていくんだ」
「わかりました」

C国軍のサイバー部隊は、一つ一つ、日本国内の「拠点」の攻撃をはじめていたのだ。

後で、わかったことはこうだ。

オビアを買った佐藤の家は東京の郊外の小都市にある。その裏が父親の職場「水川電業」だ。そこは日本でも知る人ぞ知る通信機関係の最先端機器を作る小さな会社だ。日本の大手電話会社などの使う通信機器は全てそこで作っている。最新の携帯電話網用のインフラ関係の機器から、携帯端末の試作まで、その技術力を買われて、軍事用の通信機器などの開発製造も行っていた。この会社がなければ、日本の高度な通信機器のほとんどは動いていなかっただろう、と言われている、知る人ぞ知る会社だ。爆発はその会社で起きた。これで、しばらくは、日本の軍事用高度情報通信機器の開発は遅れることは必至だ。佐藤自身は、会社を出た後で、自宅に戻ったところだったから、彼と彼の家族への被害は少なかった。しかし、佐藤は爆発後に、家族ともども、その場所から姿を消していた。聞くところによれば、会社の拠点をC国に移したらしく、家族ともども引っ越しを行い、後にC国の国籍も取得した、とのことだ。

佐藤の家に来たロボット、オビアは、佐藤の家族のいない時間に家の外を徘徊し、佐藤が代表をつとめる「水川電業」の位置を特定し、C国軍がオビアに予め入れてあるバックドアからある日オビアに侵入、オビアのコントロールを奪い、家の位置の特定のために、そこにいた。実はオビアの元になるロボットはC国で作られており、そのソフトウエアには、最初からバックドアが仕掛けられていたのだ。そして、その会社の位置を特定したオビアめがけて、爆発物を抱えたドローンが東京郊外の小都市近くの大学のグラウンドから発進。大学には多くのC国の留学生がおり、その留学生の一人がドローンを発進させたらしい、ということまではわかった。そして、そのドローンは、オビアのいる「水川電業」の社屋めがけて、爆撃を行ったのだった。

こうして、日本にある高度な技術を持った会社が一つ一つ、日本から姿を消した。