「靖国」と「従軍慰安婦」と韓国と国境と

いま、韓国にいて韓国のテレビを見ているが、このBLOGを書いている時点で一番大きなニュースといえば、なんといっても「鳥インフルエンザ」の件だ。既に慶尚北道も慶尚南道もかなり敏感になっており、非常事態宣言もされいる、と報道は伝えている。

そして、その次に何度も流されるのが、日本の安倍晋三首相の靖国神社参拝問題。そして、新たな銅像が作られた、という従軍慰安婦の話だ。しかし、これを日本の報道やネットで見ると、「日本叩き」みたいな文脈で一緒くたに語られるが、それはこの2つの問題については当たっていることもあり、当たっていないこともある、と私は思っている。

実は、韓国でこのニュースを見ると、これらのニュースもエキセントリックに報道されることはまずない。大変に公平な報道であり、「韓国の政府はこう言っている」と「日本の政府はこう言っている」が並行して語られている。報道機関として当然の立場と言える。

加えて、ソウルでの反日デモでも、年々参加者が減少しており、人を集めるのが大変、という状況に変わりはない、とのことだ。そして、気を付けなければならないのは、従軍慰安婦の問題に関しては日本の過去の戦時の問題を当面の問題としながら、これは告発を行っている韓国や中国の政府だけではなく、多くの国で行われた行為の一部である、ということだ。つまり、日本の過去はサンプルの1つで、本当に問われているのは、戦争という状況の中で女性を蹂躙する、という行為のことであり、ひいては戦争そのものへの批判である、ということだ。だから、過去のサンプルを出して、将来はこういうことが無いようにしよう、ということが、日本の過去を糾弾する、その延長上になければならない。従軍慰安婦問題は女性の人権の問題であり、その先には、それがどこの政府であるにせよ、戦争を仕掛ける国の政府が批判されるべき、という問題につながっている、ということだ。

「日本だけが悪者になっている」のは、両国の政府の思惑もあるのだろう。しかし、韓国の庶民は非常に冷静だ。ニュースで煽るような報道はしていないし、今日も日本との間には多くの旅客機と船が行き来している。減ったとは言うものの、韓国から日本への訪問客は昨年の10、11月で毎月16万人もいる。在日の韓国人も多いが、在韓の日本人も非常に多く、しょっちゅう行き来している人も多い。

釜山の地下鉄には日本語表示もあり、ターミナル駅では日本語のアナウンスもあるので、日本人が釜山市内の移動に迷うこともほとんどない。地上に出てみれば、釜山市内の市バスでも、行先表示に日本語が出てくる。さらに、日本の大企業が韓国に巨大な工場を作った、という話は最近よく聞くようになってきた。DENSOなどが来たときは「大歓迎」で、町中に「DENSO歓迎」の旗が立っていたくらいだ。

また、靖国神社に関してはかつて日本国内からの批判も多かった。単なる国を守った英霊の眠る神社というところではなく、戦後、太平洋戦争での「A級戦犯」を「まとめて祀った」というところにポイントがある。日本軍の「蛮行」はそれ以前からされていた戦争の蛮行の一部だ。日本だけが、と言われるがベトナム戦争での韓国軍も多くの殺戮を行った、ということで韓国では批判されている。中国軍も太平洋戦争当時はその前後での「白色テロ」をはじめ、多くの殺戮をした。これもまた、日本だけの問題ではないが、日本の戦争行為だけが問題とされているわけでもない、ということは考える必要があるだろう。

いずれも「戦争」への批判である。「戦争」を庶民に強いる「為政者」への批判である。

これを単に「国どうしの対立」とすることは、おそらくできない。すべてが戦争そのものへの批判とならざるを得ないからだ。

加えて、昨今では核兵器あり、細菌兵器あり、テロあり、サイバー攻撃あり、グローバルマーケットへの経済的な攻撃あり、で、戦争や戦闘の定義そのものがはっきりしていない。しかし、はっきりしているのは、「戦争」は国の為政者どうしが始めるものであって、必ず「国」とか「地域」という単位どうしで行われる、ということだ。しかし、昨今はグローバル経済の進展で、こういう「地域どうしの戦闘・戦争」は、どの国や地域にも利を生まなくなっている、という現実がある。そのため「戦争」そのものが国どうしで、それが「戦争」であるがゆえに忌避されている、ということだ。

物流、情報流通、お金。そういう現実の前に「国」はどうしようもないだろう。だから、国境は溶けていく。国を頼りに生きることができなくなっている、というのが現実だ。やがて、「靖国」も「慰安婦」も、「戦争」も「国」も、しぶとく一部には残りつつ、世界という単位で見ればたいした影響もないものに成り果てていく未来が、すぐそこにある。世界は「カネ」という価値で統一される、と言ってもいいかもしれない。「カネ」の秩序を壊すものには、大きな制裁が加えられるだろう。