人が忘れた「自然」

STAP細胞騒ぎは昨年のエポックの1つだったけど、「あったか、なかったか」という二元論で語られていることが既に大間違い。一般にはプロレスみたいに勝ちとか負けをわかりやすくしたほうが受けるんだろうけどさ。実態はそんなことはありえないわけでね。

要するに、現状では「結論」なんてありえないでしょ?実際にそういう研究の現場にいた自分としては「可能性がある」程度の話で、それをよりたしかにしていくとか、より否定していくのは、今後のこの人だけじゃない、多くの世界中の研究者も一緒になってやっていくことでね。「結論」なんてわかりやすいものなんか、もともとないですよ。そういう科学の分野なんだから。なんでも物事をわかりやすくできると思ってるのって、ばかじゃねぇのか?と思っちゃうわけだ。

結論は数年で出るかもしれないし、数十年かかっても出ないかもしれない。そういう研究だよ、これはね。世間がワァワァ騒いでも、科学の研究ってのはそれとは別のところにあるものだから、騒いだ通りになんかなりませんよ。相手はいくら小さくても、人間社会じゃない。科学という「自然」を扱うものだし、「自然」は人間の思惑なんて考えてくれないからね。関係ないのね。「台風来ないで~」っていくらたくさんの人が思っても台風は勝手に来るわけでね。「地震来ないことにしよう」って思い込んでも、地震は来るわけですよ。「死にたくない」って思っても、死は生物である人間にはやってくるのが当たり前。それが「自然」。人間じゃどうしようもないものなんですよ。だから、昔の人は「神」とかって言って、恐れ、崇めたわけでね。人間の人知の及ばないものだからね。ましてや人間社会のプロレスみたいに勝敗が明確に決まる、なんてことはありえない。

論文の捏造だ、画像の捏造だ、ってのも、そりゃいいことじゃないよね。でも、この分子生物学にかぎらず、けっこう多くの学術分野で実際にあちこち行われてますよ。なにせ「論文」が学者というものを仕事にしている人の生活の糧だからね。そっちは人間社会のビジネスですから、裏も表もできちゃうもの。論文なんて100%信用しろ、ってほうが無理がある。それに、数十年どころか数百年たって、「あれは間違いだった」みたいな話は科学ではいっぱいあるよ。野口英世の研究だって、今から見ればウソばっかだったけど、当時の野口は真剣に真実を突き止めたと思っていたわけでね。ウィルスというものが全く発見・認知されていなかった時代にウィルスを研究対象に知らずにしちゃったから、トンチンカンな解答しか出せなかった、ってのが、今になってわかってきたんだよ。

アインシュタインの「相対性理論」だって、それまでのニュートンの力学や万有引力の法則を否定したわけじゃなく、それは相対性理論から言えば、限られた条件下でのみ正しい、ってことがやっとわかった、ってもんでしょ?時代が進むと、人間の知も自然に近づいていくように思えるよね。でも、ぼくらはまだ葉っぱ一枚作り出せないし、せいぜい宇宙って言っても、ごく近くの月に人間が行った、って程度のもんでしょ?地震の予知だって、全然できなかったわけでね。人間の叡智なんていまはその程度のもんですよ。

ましてや、実際に科学の研究の現場にいない人が科学を語る、ってのには無理があるわけだよ。こういうことについて、「オレは門外漢だからなぁ」っていう謙虚さがみんな自覚せずになくなっちゃって「オレは門外漢だけれども」って、「言い訳」を最初に置いておいて、「オレ様理論」でなんでも一刀両断にシンプルに考えて、書いちゃう。そんなにシンプルにできるんなら、専門家は必要ありませんよ。で、科学を知らない人があれこれと自分の理屈だけで考えると無理が出てくるから「それはきっとこういうことが裏に在るに違いない」って、陰謀論をくっつけて、「これで辻褄があった」とか、そういうバカなことはやめて欲しいね、と思うわけですよ。陰謀論じゃなくても、科学の世界をちゃんと知っていると、どれもこれもみんな辻褄があって、陰謀論なんか挟まなくても納得できるものなんだよ。

科学というのは人間社会に役立つことを前提にした「技術」じゃない。「自然」という、人間がなんともしがたいどころか、理解さえ本当は無理かもしれないものを相手にして、なんとか人間に近いところに持ってこようとしている人間の営みです。その自然と人間界を結ぶ司祭が研究者です。STAP細胞騒ぎってのは、そこに陰謀があったにしろ、なかったにしろ、自然から見れば、人間社会で起きたコップの中の嵐、ってとこだよな。夜郎自大に陥っている人間その本人は自分がそういう状況に陥っていることをわからないもんだよ。

本人が人間であるがゆえに、また、研究者であるがゆえに、人間社会と自然のあいだの軋轢で潰されそうになって、悲鳴を上げているのが、今の科学という分野全体であって、その象徴が小保方晴子なんだね。時代が彼女を選んだんだね。