火を吹くモバイルバッテリー(2) 補足

昨日「火を吹くモバイルバッテリー(1)」という記事を書いたのだが、行っていることは単純で「1年以上前に買ったモバイルバッテリーは使うな」ってことだったわけだが、マニアは内部の電池を新品に自分で交換したりすることもできる。秋葉原などで売っているのだが、電池の型番やメーカー、使う個数は内部を開けて調べるしかない。

あと、前に書き忘れたのだが、モバイルバッテリーが火を噴くのは、いくつかの条件が重なったときで、かつ、電池がかなり劣化しているときに限る。基本的に、モバイルバッテリーはそういう状況を考えて作ってあるため、多くの場合は安全なのだが、ときどき「不良品」がある、というように考えたほうがいいだろう。いろいろな条件、というものの中には、長く使って電池が劣化している、ということもあるわけだが、他には、例えば「強いショックを与えたとき」「周囲の温度が異常に高いときや低いとき」などがある。

しかし、不良品の電池なんかは掴まされても、まるでわからない。電池に「不良品」なんて書いてあるはずもないからだ。1か月くらい使って、なんだか電池の縁が早すぎる、電池の充電の時間が長すぎる、などと感じたときは、電池が不良品である可能性が高い。そういうときは、もったいない気もするが、そういう電池は破棄したほうが良い。なにせ、電池の爆発で死んだ人や大怪我をした人もいるのだから、甘く見ないで、そういう電池に当たったら、すぐに破棄して、新しいものを買うようにしよう。

また、電池の充電器でも、USBを刺す口が違うと、取り出せる電流容量が違う、というものもあるので、注意が必要だ。


火を吹くモバイルバッテリー(1)

あのニューヨーク貿易センタービルの「September 11」に合わせたわけではないと思うが、2017年9月11日、東京の神田駅で、白煙が上がった。「2年前に一番安いモバイルバッテリーを買ったが、それが爆発した」ということだ。これまでも、iPhoneやAndroidのスマートフォンが爆発して死者が出た例もあるし、PCの電池でも同様の事故が世界のあちこちで起きている。

特に最近気になるのは、外部にケーブルなどでスマートフォンに接続して充電する「モバイルバッテリー」だ。モバイルバッテリーは、中に充電式の大きな容量の充電式電池を持っていて、これに、夜寝ているときなどに充電する。そして、朝起きたら、出勤時などにスマートフォンとともに持って歩き、スマートフォンの電池が空になったときに、このモバイルバッテリーからスマートフォンに充電する、という仕組みだ。大小様々、有名無名様々な製品が非常に多く家電量販店などで並んでいるが、ときどきではあるものの、前記のような「爆発事故」を起こすことがある。最近はこの充電式電池をいわゆる「電子タバコ」でも使っていて、その電子タバコが爆発した例もあるという。

【モバイルバッテリーは1年で買い換えること】
では、こういったモバイルバッテリーを使うとき、なにを気をつけたら「爆発事故」に会わないようにできるのだろうか?これまでの充電式電池の爆発事故の多くは「2年前に買った古い電池」などの電池が事故を起こす例が非常に多い。ということはモバイルバッテリーの事故を起こさないためには、まず第一に「1年たったら、新しいものに買い換える」ことだ。現代の充電式電池は、毎日充電と放電を繰り返していると、だいたい1年で劣化が始まり、2年くらいで寿命を迎える。それでも使うと事故を起こしやすい、ということだ。これは、電池の劣化を考えていない充電器の充電回路に問題がある場合が多く、当然ながら、古いモバイルバッテリーほど、回路も古く、危ないものが多い、と考えるのが普通だ。そういう意味でもより新しいモバイルバッテリーにするのは意味がある。

【充電しっぱなしは問題ない。が、】
よく、「過充電は良くないから、モバイルバッテリーは充電が終わったらすぐにケーブルを抜こう」などのことが書いてある記事があるが、これはほとんどの場合ウソだ。モバイルバッテリーの中には、非常に賢い充電回路があるので、過充電になりそうだったり、電池の温度が上がると、充電や放電を中断する回路などがついている。つまり、充電しっぱなしは、ほとんどの場合、問題がない。しかし、「古いモバイルバッテリー」では「古い電気回路」を使っているものがあり、現時点で2年以上前のものは、電池が劣化する状況をわかっていないものもある可能性がある。そうなると、充電することで、電池が爆発するものがあるので注意が必要だ。いずれにしても、ここでも「2年以上前の古い電池は使わない」ことだ。

便利に使っている人も多いだろう「モバイルバッテリー」だが、それを安全に使うコツは簡単である。「1年で買い換える」「中古は買わない。必ず新品を買う」。これに尽きる。これは、モバイルバッテリーだけの問題ではなく、スマートフォンの電池、タブレットの電池、PCの電池などの全ての充電式電池で言えることだ。

 


火を吹くUSB充電器の話

Cluster Amalilis

Cluster Amalilis

私の知っている人、数人が「USB充電器が火花を散らして壊れた」あるいは「パチッと音がして壊れた、という被害に会った。ある人は、USBの充電ポートが4つあるUSB充電器に、iPadを4つつけて充電したところ、充電器が壊れたそうだ。電気のことを勉強したことがない人にとっては信じられないだろうが、こういうことは簡単に起こる。電気のことを少しでも勉強したことがある人は、そういうことは「危ない」と知っているからやらない。

実は、USBの規格と、「パソコンのUSBポートで充電できます」と書いてある機器の電源の規格を調べると、この説明には大きな不備があることがわかる。

実はUSBポートで供給できる電源の電圧は5V(ボルト)。そして、電流は0.5A(アンペア)まで、ということが普通だ(USB2.0の場合)。実は、USB1.0が出始めの頃には、USBポートでつながれたPCの周辺機器に電源を供給することは考えておらず、その規格は決まっていなかった。

しかし、USB2.0ではその規格で「最大電流は0.5Aまで」と決められた。そして、USB3.0ではこの規格は1.0Aまでとなった。現在のUSBポートの主流は、ご存知の通りUSB2.0だ。つまり、USBポートで供給できる電流は基本的に0.5Aまでとするのが適当、ということになる。とは言うものの、最近のスマートフォンでは充電の最大電流が1.0Aやそれに近いものがあるし、iPadなどのタブレット端末では2.0Aも必要なものも普通にあるのが現状だ。

電気を供給する電源は、簡単に言えば(1)「交流か直流か?(交流であるとしたら波形や周波数はどうか)」、(2)「電圧は何Vか?」、(3)「電流の容量はいくらまで耐えられるか」という3つのことが決まれば、だいたい、「電源」と「電源を使う機器」をつなげることができる。あとはコネクタなどの形状が同じものである必要があるのは当然だ。(これは「定電圧電源」という電源の場合だが、私たちが普通充電などに使う電源は「定電圧電源」だから、ここではこれについてだけ話をする)

定電圧電源では、たとえば、100Vの電圧が供給されているところに、5Vで動く機器をつなげると、たいていの場合、機器が壊れる。逆に、100Vの電源が供給されているところに、200Vで動く機器が接続されると、機器が電圧不足で動かない。

だから、「電圧」は、電源と使う機器で「ぴったり」なものを選ぶ必要がある。(1)の「交流か、直流か」も、同じで、これも規格をぴったりとあわせないといけない。ただし、マージンがとってあるから、少々電圧が違ってもちゃんと動くが、大幅に違うと動かなかったり、壊れたりする。

(3)の電流は「容量」と表現されているように、1Aの電流容量のある電源には、機器が充電などに使用する電流は1Aより低ければよい。機器の容量が電源の電流容量より小さいぶんには問題ないが、反対に電源の電流容量よりも機器が必要とする電流が大きいと、電源が壊れたり、電源が壊れる前に「ヒューズ」などが飛んだりする。いずれにしても「力不足」で、動かなくなる。

今回の事故が起きた4つのポートがついている「USB電源」の電流容量は、USB2.0の規格にあわせ、1ポートあたり500mA(0.5A)となっていた。しかし、iPadは、1台で1.2Aの電流を充電に必要とする。これを4台つなげれば、1.2 x 4 = 4.8Aの電流が電源に必要とされるが、電源は2.0Aしか容量がない。だから電源は火を吹いて壊れたわけだ。また、iPhone はiOS5以上になってから、1Aの電流を必要とするという。であれば、iPhoneを4台つなげても、やはり電源は壊れる。

前に書いたように、USB3.0の規格でも、電流容量は1.0Aまでだから、USB3.0のポートを持つPCでiPadを充電するのも危険だ、ということになる。

「でもおれ、大丈夫だったよ?」という人もいるだろう。実は、充電し終わったiPadや、充電が終了寸前のiPadは、充電のときの最大電流と書いてある1.2Aも電流を必要としない。調べたことはないが、おそらく、0.1Aも電流を取らないだろう。考えてみればわかると思うが、一生懸命充電しているからこそ「電流(=エネルギー)」が必要なのであって、充電し終わったら、そんなに電流は流れないのだ。また、まったく空のバッテリーの充電には多くの電流を必要とするものの、充電するに従って、充電のための電流は必要なくなってくる、というわけだ。iPadなどのスペックに書いてある「電流」は「iPadの電池が空の状態で充電しながら使っている」というときの「最大電流」ということになる。また、USB充電器やパソコンのUSBポートの側も、規格の通りではなく、より多くの電流を供給できるようにしてあったり、あるいは、数10%までなら過剰に電流を流しても大丈夫、という「マージン」がとってあるものも多く、「運良く」トラブルが回避できている場合もある。

ということは、iPadやiPhoneを充電するときは、まず、付属の充電器(普通はこれは機器の最大電流を供給できるように作ってある=USBの規格以上の電流が流れてもOK)で充電し、満充電、あるいは満充電に近くなったら、PCにつなぐ、というのが正しいiPhoneやiPadの充電と、PCへの接続の方法、ということになる。

簡単に言えば、iPhoneやiPad、そしてAndroidなどのタブレット端末や携帯電話、スマートフォンのUSB充電器は、こういうことをわかっていて使わなければならない、ということだ。そうでないと充電器が火を吹いて家が火事になることさえ考えられる。

本当は、iPadなどの機器の側が、充電などのときに、USBの規格にあわせた0.5A以下の電流しか使わないようにすべきだ。しかし、「USBを電源として使う限りにおいて」、メーカーはこの規格を守っていないところがとても多い。ここで見たようにAppleでも守っていない。それはUSBのように見えて、USBの規格ではない、「まったく別のもの」ということになる。

本当は、iPadやiPhoneなど、0.5A以上の電流を必要とする機器の場合は、専用の充電器以外は使えないように、コネクタの形状をUSBではないものにすべきだ。そうでないと、また「事故」が世界中のどこかでどんどん起きることになる。

日本では消費者庁などがこういうことをちゃんと規定すべきだが、まだ行政指導などがあった、ということは聞いたことがない。このUSB充電器をめぐる混乱と事故はちゃんとして法整備がなされるまで、おそらく、まだまだ続くだろう。

「火を吹くスマートフォン」の原因とは

PC、スマートフォンや携帯電話、それから、太陽電池などのバックに使われる電源装置の中のバッテリーなど、充電・放電ができるバッテリーは特に、その「充放電のテクノロジー」は難しい。電源関係はデジタル技術にできるわけもなく、アナログ技術が最後まで残らざるを得ない領域だが、この領域で大切なのは「技術は年とともに蓄積していく」という当たり前のことだ。もっとわかりやすく言えば他の技術分野に比べて「革新」が非常に少ない技術分野なので「龜の甲より年の功」の技術のほうが、重要な意味を持つ、ということだ。

むかし、メーカーのカーステレオの設計をしたことがあるが、ここでも電源は非常に大事だった。24Vしかない電源をどうしてもスイッチング・レギュレータで電圧を上げて使う必要がある。これまで、自分でもいくつかの電源を作ってきたが「電源」にとって重要な部品の1つが「トランス(Transformer)」だ。しかし、このトランスをちゃんと設計し作れる技術者は「若い人」ではない。

インターネットも携帯電話も無かった時代、若い技術者だった私はある開発機器のために、「トランジスタ技術」の小さな広告を探しだして、たしか川崎だったと思うが、電源用の特注のパルス・トランスを作る小さな町工場を訪れたことがあった。テレビの古いドラマで見たのをそのまま絵に描いたような、おじいさんと、その奥さんの2人で細々とやっているところだった。

「お電話をした三田ですが」と、言って玄関を入ると、普通の家の普通の畳の居間。その横に工場担っている土間が続いている。奥さんも居間にいる。針仕事をしているようだった。

「どうぞどうぞ」と言われるままに靴を脱いで上がり、トランスが最終的にできる最後の工程が終わるまで待たされたのだが、そのうちお昼になって、お昼もその家でごちそうになってしまった。まるで自分がその老夫婦の息子になった気分だったが、世間話をしながら、トランスができるのを待った。目の前でおじいさんはトランスに線を巻く機械を使って慎重に線を巻いている。

頼んでおいた特注の試作品の数個のトランスができると、代金を払って(それも今から考えるととても安かった)その家を辞した。帰ってそのトランスの特性を測ると、ちゃんとこちらが求めたスペックになっていて、なによりも「飛びつき(電波漏れ)」の少ない線の巻き方がすばらしい、ということがわかった。まさに「職人芸」の世界だった。これを使って、放送機器に接続されるある音響関係の特注の機器を作って納入した。ノイズが非常に少ない音ができた。

電源の技術はその基本設計から、基板の設計、熱設計、コンデンサなどの弱い部品の選定など、多くのアナログ要素に満ちていて、経験が非常にモノを言う世界だ。電池の充電や放電についても、詳細なデータ取りと経験の両方が無いと、爆発事故などにすぐにつながる。スマホなどの機器用の充電・放電用のICもあるが、メーカーから供給される回路図と使い方そのままでは、まずまともな特性は出ない。経験を元に自分でデータをとって、アレンジして、実験を繰り返して、やっと使えるレベルになる。しかも電池には経年変化も普通にあり、不良品も製品となって出ていることもあり、そのサポートも電源回路がしなければならない。それをしないと、爆発事故にかんたんにつながる。

ぼくらは、絶対に爆発なんかしない、と思われている機器だからこそ、胸のポケットに入れたりする。安心してスマートフォンを顔につけて電話する。「電源の爆発事故」は、たとえ起こる確率が非常に低くても、その会社の事業や製品の売れ方に大きな影響を与えることになる。古くて小さな部分で、革新も少ない技術分野だが、その社会的影響は多大だ。だからこそ、そこにかける「保険(電源の開発費)」は、大きくなる必要が、どうしてもある。

ちなみに、ぼくが手にした範囲では、モトローラのスマホの充電・放電は良くない。電池をすぐにだめにしてしまう。しかし、台湾HTCのスマホはかなりきめ細かい充放電のコントロールをしていて、充電器をつなぎっぱなしでも電池の寿命を最大限にできているようだ。